解✦談

解りやすく、解きほぐします。

積立投資の効果は、値動きによって変わる

心臓に悪い値動きこそが積み立て向き?

 

投資に関する考え方のなかには、どうしても数字を使って計算してみないと、
具体的なイメージが湧いてこないものがあります。

たとえば、積立投資の効果は、投資対象の値動きによって変わるというお話。

いま、株価指数に連動するインデックス型投信に毎月1万円ずつ、
10カ月にわたって積立投資をおこなうと仮定しましょう。

株価指数は「日経平均株価」でも米国の「S&P500種株価指数」でも、
何でも構いません。とりあえず何らかの株価指数を想定しておきます。

インデックス型投信の値動き(基準価額の動き)について、3種類のパターンを
考えてみます。話を分かりやすくするために、値動きはわざと極端な例を示します。

ひとつめの《事例A》は、基準価額が順調にずっと右肩上がりで動いたケースです。

ある月末(0カ月目)の基準価額がちょうど10000円だったとして、
その次の月末から1万円ずつ積み立てたとします。

各月の基準価額と、それに応じて購入できた口数は、以下のようになります。
ちなみに計算は、「1万円÷基準価額=購入口数」です。

《事例A》

0カ月目 10000円

1カ月目 11000円   0.9口  6カ月目 20000円   0.5口
2カ月目 13000円 0.76口  7カ月目 21000円 0.47口
3カ月目 15000円 0.66口  8カ月目 23000円 0.43口
4カ月目 16000円 0.62口  9カ月目 24000円 0.41口
5カ月目 18000円 0.55口  10カ月目 25937円 0.38口

 

このケースでは、10カ月間に10万円を使って合計5.68口を購入したことになります。

10カ月目の時点で投資の状況は「5.68口×25937円=14万7322円」なので、
この時点で得られたリターンは4万7322円。

「14万7322円÷10万円=1.473」なので、収益率はプラス47.3%です。

また、10カ月間で1口あたりの平均購入単価は「10万円÷5.68口=17605円」です。

2つ目の《事例B》は、基準価額が最初はぐずぐずと冴えない動きだったものの、
途中から順調に上昇したケースです。

《事例B》

0カ月目 10000円

1カ月目   9500円 1.05口  6カ月目 14000円 0.71口
2カ月目   9000円 1.11口  7カ月目 17000円 0.58口
3カ月目   9500円 1.05口  8カ月目 20000円   0.5口
4カ月目 10000円    1口  9カ月目 23000円 0.43口
5カ月目 10500円 0.95口  10カ月目 25937円 0.38口

このケースでは、10カ月間に10万円を使って合計7.76口を購入したことになります。

10カ月目の時点で投資の状況は「7.76口×25937円=20万1271円」なので、
得られたリターンは10万1271円。

「20万1271円÷10万円=2.012」なので、収益率はプラス101.2%です。

10カ月間で1口あたりの平均購入単価は「10万円÷7.76口=12886円」です。

3つ目の《事例C》は、いきなり基準価額が急落して半値まで落ち込んだものの、
その後は回復して順調に上昇したケースです。

《事例C》

0カ月目 10000円

1カ月目   8000円 1.25口  6カ月目 12000円 0.83口
2カ月目   6000円 1.66口  7カ月目 16000円 0.62口
3カ月目   5000円    2口  8カ月目 20000円   0.5口
4カ月目   7000円 1.42口  9カ月目 23000円 0.43口
5カ月目   9000円 1.11口  10カ月目 25937円 0.38口

このケースでは、10カ月間に10万円を使って合計10.2口を購入したことになります。

10カ月目の時点で投資の状況は「10.2口×25937円=26万4557円」なので、
得られたリターンは16万4557円。

「26万4557円÷10万円=2.645」なので、収益率はプラス164.5%です。

10カ月間で1口あたりの平均購入単価は「10万円÷10.2口=9803円」です。

これら3つの事例では、いずれも基準価額が当初の10000円から、
10カ月後には25937円まで上昇しています。

ところが、その過程で基準価額がどのような動きをするかによって、
最終的な投資成績にはかなり大きな違いが出てくることが分かります。

《事例A》は基準価額がずっと右肩上がりなので、投資家は「下落の恐怖」に
おびえる必要がいっさいなく、精神衛生上は非常に良いと考えられます。

しかし積立投資に限っては、好ましいパターンではありません。

むしろ、途中で基準価額が半分まで下がって「心臓に悪い」ような
《事例C》こそが、積立投資にもってこいのパターンなのです。

逆に考えると、もしも今後、私たちが積み立てる投資対象の価格が
《事例C》のように急落したとしても、それについて「しまった」とか
「やばい」と思って焦る必要はないわけです。

もちろん、その後に価格が回復して、最終的に大きく上昇してくれなければ、
十分なリターンは得られません。

でも、「その後の価格がどのように動くか」についてなど、どっちみち誰にも
分からないのです。

せっかくなら投資対象の価格がいったん大きく下落して、積立投資の
平均購入単価が下がってくれた方が、将来的に大きなリターンにつながる--。

そんな風に考えた方が、よっぽど精神衛生上よろしいのではないか、
と思うのです。

 

積立投資の対象も分散が不可欠

 

ところで、上記の3つの事例を毎月の積み立てではなく、
「毎年の積み立て」と考えたらどうなるでしょうか。

つまり、基準価額の動きをそれぞれ1年間の平均値と考え、その平均値に対して
毎年1万円ずつ、10年間にわたって積み立てたと仮定するわけです。

3つの事例の最終的な基準価額は25937円という中途半端な数値になっていますが、
実はこれにはちょっとした意味があります。

当初の基準価額10000円が、10年間で25937円まで上昇した場合、この投信における
10年間のリターンは、ちょうど「年率10%」に相当することになります。

「10000円×(1.1の10乗)=25937円」という計算です。

年率10%というリターンは、株式投資では悪くない数字です。

私がこれまでに見聞きした専門家の話を総合すると、株式投資では長期的に
長期金利+5~7%程度」の年率リターンが期待できるようです。

長期金利は「10年物国債利回り」のことで、最近は日本が0.1%強、
米国が1.8%弱といった水準です。

専門家の意見が正しいならば、現状で日本株には5~7%程度、米国株には
7~9%程度の年率リターンをそれぞれ期待していいことになります。

もういちど、《事例A》を見てみましょう。

10カ月を10年間に置き換えて考えると、最終的な収益率47.3%というのは
年率換算で2%強にすぎません。

当初の基準価額10000円の時点で10万円を一括投資した場合には、
年率10%のリターンが得られるにもかかわらず、積立投資をやると
年率2%強まで下がってしまうわけです。

《事例B》でも、積立投資をやると年率7%強まで下がります。

《事例C》では逆に、積立投資をやることで、年率10.2%強まで
リターンが向上します。

このところ日本の個人の間では、米国株投資がブームの様相を呈しています。

2021年に、米国のS&P500種株価指数が26.8%の上昇を記録したのに対して、
日本では日経平均株価が4.9%、TOPIX東証株価指数)が10.3%の上昇に
とどまりました。

過去30年間のリターンを年率でみても、S&P500種株価指数の8.5%程度
(配当なし・米ドルベース)に対して、日経平均株価は0.7%程度、
TOPIXは0.4%程度(いずれも配当なし)となっています。

短期でみても長期でみても、日米株式の上昇率には大きな差があるわけで、
日本人が米国株の高い成長性に便乗したいと思う気持ちはよく分かります。

しかし、だからこそ積み立てによって米国株への投資を考えている人には、
前述した3つの事例を思い出してほしいのです。

見かけ上の収益率と、実際に積立投資をやった場合の収益率が、
投資対象の値動きによって大きく変わってくることを。

今年以降、米国株はいったいどのような値動きをするのでしょうか。

これまで10年以上にわたって、米国株はほぼ《事例A》のような値動きを
示してきたので、そろそろパターンが変わっても不思議ではありません。

FRB(米連邦準備理事会)が予定している利上げなどの影響で、
米国株が急落でもしてくれようものなら、それこそ積み立てを
始めるには絶好のチャンス到来です。

でも、実際に何が起こるのか、誰にも正確に予想することはできません。

ならば、他の国の株価指数で、これから《事例C》のような値動きを
しそうなものはないのか。

もちろんそれについても、誰も分かりません。

だとすれば、積立投資の対象も分散が不可欠ということになります。

つまらない結論かもしれませんが、「長期・分散・積み立て」という
投資3点セットの重要性は、なかなかに揺るぎないものなのです。