解✦談

解りやすく、解きほぐします。

バランス型投信の真実

4資産への投資も手入れも手間がかかる

 

これから投資を始めようという人はもちろん、すでに投資を始めている人のなかでも、
投資に「安全」や「安心」を求めるニーズは大きいようです。

私たち一般の個人にとって、投資の安全や安心とは、要するに何なのでしょうか。

たとえば、将来についてはこんな内容が考えられます。

●投資した資金が将来的に減らないこと(少なくとも元本割れは避けたい)

●投資のリターンが、将来的に当初の目標額を下回らないこと
(できれば予定通りのリターンが実現してほしい)

身も蓋もない言い方になりますが、これらは結果論なので、現段階であれこれ
心配してみたところで何の意味もありません。

むしろ将来的な投資の結果は誰にも予測できないし、管理もできないということを、
いまのうちからよくよく心得ておく必要があります。

そもそも将来、本当にお金が必要なときが来て、投資対象を換金する必要に
迫られたら、その時点で元本割れしたとか、目標を達成できなかったなどと
言っている余裕もないはずです。

自分の将来など、いつ何が起こるか、まったくもって分からないものであり、
投資とは、そういう私たちの「分からない将来」に備えてやるものです。

だからこそ、投資はできるかぎり余裕資金でやるべきだし、将来的にあらゆる
事態を想定しておくべきだと言えます。

もうひとつ、安全や安心にはこんな内容もあるかもしれません。

●投資対象となる株式や債券などの価格変動率(価値が上下にぶれる幅)が、
  できるだけ小さいこと

これは投資の途中経過に関するもので、できるだけ波乱のない安定した投資状況が
続いてほしいという願望でしょう。

言い換えれば、投資対象の価格が大きく下落する恐怖から逃れたいということです。

残念ながら、投資対象の価格変動率が低ければ、資産を大きく増やすことは
できません。そして価格変動率のうち上昇だけが高くて、下落は低いというような、
都合のよい投資対象はありません。

私たちが資産を大きく増やしたければ、投資の途中で大きな下落を経験する恐怖は、
いやでも克服しなければならないわけです。

投資に100%の安全や安心はありませんが、安全や安心を高める方法ならあります。

以前、本ブログの《分散投資の意味》で紹介した、国際分散投資です。

繰り返しになりますが、あるデータによると、日本株」「日本債券」
「外国株」「外国債券」という4つの資産に25%ずつの均等投資を10年間
続けた場合、「1970年(1月)~79年(12月末)」の10年間に始まって、
「2011年(1月)~20年(12月末)」の10年間まで、全部で42ケースあった
どの10年間をとっても、「10年間の投資成績」はすべてプラスになっています。

これならば、投資資金の50%を株式に配分してリターンの向上を図りながら、
少なくとも元本割れは例外なく避けられるのですから、まことにありがたい
投資方法といえます。

ただし、国際分散投資では、私たちが自分で4資産への投資(4種類の
インデックス型投信などを利用するのが一般的)を個別におこなう
必要があるほか、月末ごとにリバランスという「手入れ」も必要になります。

リバランスとは、投資によって増えたり減ったりした資産を、当初の25%に
戻す作業です。

たとえば、ある月に日本株への配分比率が28%に高まり、逆に外国債券への
配分比率が22%に低下したような場合、月末に日本株の3%分を売却して、
その資金で外国債券を新たに3%分だけ購入することで、再び4資産がすべて
25%ずつの配分になるように調整します。

4資産への投資も、手入れ作業も、ふつうの個人にとっては
非常に手間がかかり、面倒くさいことです。

そこで、国際分散投資とリバランスをまとめてお任せできる、
バランス型投信が重宝されるようになったのです。

 

趣旨や目的から逸脱した商品が目立つ

 

「つみたてNISA」の対象商品として、実はいちばん多く用意されているのが
バランス型投信です。

今回、改めてその商品ラインナップを見てみて驚きました。

REIT不動産投資信託)なども含めた5資産~8資産に投資するタイプが
非常に多く、さらには株式や債券など特定の資産への配分を多めに設定した
タイプや、各資産への配分比率を年が経つとともに自動的に組み替えていく
「ターゲットイヤー型」というタイプも目立ちます。

つまり、代表的な4資産への均等投資という国際分散投資の「直球」で勝負する
商品よりも、「変化球」で勝負する商品の方が圧倒的に多いのです。

これには投資家のニーズが大きく関係しています。

できるかぎり低リスクで高リターンを求めようとする個人や、徹底して
安全・安心を求める個人など、さまざまな投資家のニーズに応えるため、
運用会社は新たな投資対象を加えたり、各金融資産への投資配分にわざと
偏りをもたせたりと、さまざまな工夫を施して新タイプのバランス型投信を
開発してきたわけです。

最近では、先物取引を使ってレバレッジ(てこの原理)を効かせ、通常の
バランス型投信の3倍程度のリターン獲得をねらうタイプやら、あらかじめ
基準価額の下値ラインを決めておき、投資家にその下値ラインでの換金を
保証するタイプやら、変化球にもますます磨きがかかっています。

全体的にアセットアロケーション型」と呼ばれるタイプが増えていることも、
最近のバランス型投信に目立つ傾向といえます。

これは、相場の状況に応じて株式や債券への投資比率を機動的かつ大胆に
変更するタイプで、株式相場の下落が続くような局面では、リスクを抑える
効果が高いといわれています。

その半面、株式の上昇相場で大きなリターンを獲得するのは難しいようですが、
価格変動率が小さいという特徴は、冒頭にあげた「個人が求める安全・安心」に
つながります。

さて、ここで考えてみたいのは、バランス型運用(国際分散投資)の本来的な
意義についてです。

値動きの性質が異なる複数の資産に、十分にバランスよく投資することで、
将来的に相場がどのように動いたとしても、柔軟に対応できる状態をつくっておく、
というのがバランス型運用の趣旨であり、目的でもあります。

結果として前述のとおり、代表的な4資産に均等投資を続ければ、
少なくとも元本割れを防げることは統計的に証明されています。

しかし、そこに新たな投資資産を加えたり、投資比率に偏りをもたせたり、
さまざまな工夫を加えるほどに、本来あるべき形のバランスは崩れていきます。

また、相場の状況に合わせて投資比率を機動的に変更するというのは、
あたかも「リスク管理に力を注いでいる」ように見えて、その実、
タイミング投資をおこなっていることにほかなりません。

タイミングを測って投資するのがプロにも難しいことは、アクティブ型投信が
インデックス型投信になかなか勝てないことをみれば明白でしょう。

直球型の国際分散投資がわざわざ4資産に25%ずつの投資を固定するのは、
タイミング投資の弊害を排除するための、苦肉の策でもあるわけです。

そう考えると、投資の途中で資産配分比率を大きく変えるのは、本来の目的に
逆行しているといわざるを得ません。

バランス型運用とは、各金融資産の将来的な相場状況が予測できないことを
率直に受け入れ、そうした不確実性に対処するために生み出された手法です。

その意味からすると、現状のバランス型投信に本来の趣旨や目的から逸脱した
商品が目立つという真実は、残念でもあり、いささか心配でもあります。