解✦談

解りやすく、解きほぐします。

毎月分配型投信の盛衰にみる不幸

複利効果が効かなくなる


いまから4~5年ほど前まで、毎月分配型タイプの投資信託が、
日本の高齢者を中心に異常なほどの人気を誇っていました。

毎月分配型は当初、いわゆる外債投信(外国債券に投資する投資信託)が主流でした。

大ヒット商品となった『グローバル・ソブリン・オープン(通称:グロソブ)』は、
2005年から08年にかけて純資産が5兆円を超えていました。

通常、投信の純資産は1兆円を超えれば大ヒットといわれるので、
グロソブは大・大・大ヒットのレベルです。

その後、もっとリスクの高い海外の投資対象に投資してハイリターンを狙う
タイプやら、毎月ではなく隔月で分配するタイプやら、さまざまな商品が
手を替え品を替え登場し、いずれもそこそこの人気となりました。

なぜ毎月分配型投信があんなに支持されたのか、正直にいって私はいまでも
解りません。言い換えるならば、毎月分配型投信をあえて購入する価値が
どうしても見出せない
のです。

まず、分配金というかたちで投資収益(リターン)の一部をしょっちゅう
投資家に払い戻すことで、長期投資のメリットである複利効果」が十分に
効かなくなります。

これは計算すれば分かることなので、一例を示してみましょう。

たとえば、私たちが一般的な投信Aに100万円を投資して、投信Aの投資成績が
1年目にプラス12%、2年目にも同じくプラス12%だったと仮定します。

投信Aがいっさい分配金を出さない場合、各年の投資成績は以下のような
計算で表されます(税金やコストは含みません)。

●1年目/100万円×1.12=112万円(1年間の増加額は12万円)
●2年目/112万円×1.12=125万4400円(1年間の増加額は13万4400円)

投信Aに投資した人の2年間の投資収益額は25万4400円です。

1年目の増加額である12万円が、2年目のスタート時にプラスされることで
投資元本が増えるため、毎年の増加額が加速度的に増えていく。
それが、いわゆる複利効果です。

それでは、私たちが毎月分配型の投信Bに100万円を投資した場合はどうでしょうか。

投信Bの投資成績も投信Aと同じく1年目、2年目ともにプラス12%だったとします。

ただし、こちらは毎月1万円ずつ分配金を投資家に払い戻します。

投信Bの1年目の投資成績は、投信Aと同じく「100万円×1.12=112万円」ですが、
そこから「1万円×12カ月=12万円」の分配金を払い戻すため、
2年目の投資元本は1年目と同じく100万円となります。

なお、この時点で投資家には12万円が投資収益として入っています。

2年目も1年目と同じことが繰り返されるので、投資家には再び12万円が
投資収益として入り、投資元本は再び100万円に戻ります。

投信Bに投資した人の2年間の投資収益額は「12万円×2年=24万円」なので、
すでに投信Aに投資した人より少なくなっていることが分かります。

もちろん、投信Aに投資した人は、まだその投資を継続中なので、
投資収益を換金して手にしたわけではありません。

あくまでも「投資の途中経過」が25万4400円のプラスになっているだけです。

一方で投信Bに投資した人は、すでに24万円を換金した、つまりは24万円分の
投資収益を確定させたことになります。

 

高齢者ならではの心理が影響した

 

改めて考えたいのは、投資における複利効果というメリットを犠牲にしてでも、
定期的に投資収益を換金する必要が本当にあるのか、ということです。

毎月分配型投信が人気を集めた理由として、高齢者を中心に投資家が
定期的な分配金を「日々の生活費の足しになるお小遣い」のような感覚で
とらえているからだという説明をよく耳にしました。

「日々の生活費の足しになる」とはいっても、たとえば数千万円の資金で
毎月分配型投信を購入したような投資家が、生活費に困っているはずはありません。

私はむしろ、高齢者を中心とした「投資に不慣れな人たち」が、
以下のような心理から、毎月分配型投信を重宝したのではないかと考えています。

●日々の投資状況は単なる途中経過である、と割り切ることができない。

●そのため、将来的なリターンの拡大よりも、目先の小さくても安定した
  リターンや心の平穏を優先する。

こうした心理状態には、高齢者ならではの背景もありそうです。

日本人の寿命が延びて人生80年や90年が当たり前になったとはいえ、
高齢者にとってはやはり、残された時間は決して長くないというのが
本音だと思います。

せっかく投資でリターンが得られるのなら、少しずつでもいいからできるだけ
早くそれを手にして、元気なうちに自由に使える喜びを味わいたい。

そんな気持ちは分からないでもありません。

しかし、残念なことに、ある時期から毎月分配型投信は本当に
投資する価値のない代物に成り下がってしまいました。

運用会社の間で、毎月分配型投信の「分配金利回り」(※)の大きさを
競う動きが激しくなって、投資収益を分配金に回すだけではなく、
投資元本を取り崩して(削って)分配金にあてる商品が増えたのです。

※分配金利回り:過去1年間の分配金総額をその時点の基準価額で割ったもの。
 株式における配当利回りに相当します。

分配金利回り競争が激化したのは、運用会社だけのせいではありません。

その当時、毎月分配型投信の人気はすさまじく、投信業界では
「毎月分配型でないと売れない」と言われるほどでした。

販売会社である銀行や証券会社なども、毎月分配型投信を売ることに
躍起になっていたはずです。つまり、そうした販売会社からの要請で、
運用会社が「分配金利回りを高く見せる」必要性に迫られたということも、
十分に考えられるのです。

投資元本を削ると、それ以降の投資については複利効果と逆のことが起こります。

前述の投信Bでは、1年目に投資元本から10万円分を削ってさらなる分配金に
あてた場合、2年目の投資元本は90万円まで減るため、2年目の投資成績は
「90万円×1.12=100万8000円」にしかなりません。

こんなことを繰り返していたら、分配金利回りという表面的な魅力はいくら
高まっても、肝心かなめの投資部分による収益獲得力がどんどん弱まって
いってしまいます。


最終的に、毎月分配型投信は金融庁から「顧客本位ではない商品」と批判され、
異常なブームは終わりを告げることになりました。

以前からよく言われていることですが、投信業界では、売れ筋や人気の商品が
必ずしも「品質が良い商品」とは限りません。

品質が良い投信とは、一般個人が長期で資産形成をおこなうのに役立つ
投信のことです。

その意味では、ひと頃まで日本で投信を買うのは高齢者が中心だったという事実は、
投信業界にとっても投資家にとっても不幸だったのかもしれません。

どう考えても、高齢者は若者に比べて長期の資産形成に意識が向きにくいからです。