解✦談

解りやすく、解きほぐします。

投資のリスクとリターン

リターンは何から「ぶれる」のか?

 

投資とは極端にいえば、「結果として出てくる数字がすべて」という世界です。

なぜ、その数字が出ることになったのかについては、人間の心理状態や
社会情勢などをからめて、さまざまに解釈することが可能です。

でも、投資の世界で最も重視されるのは、あくまでも数学的な観点からみた
「理論的な解釈」なのです。

そのため、投資の世界で使われる言葉の意味は、私たちが日常的に使っている
言葉の意味とは、ずいぶんと異なってきます。

たとえその言葉が、私たちが日常的に使っている言葉と同じだったとしても、です。

まず、「リスク」という言葉。

私たちの日常生活では、リスクは「危険」とか「損害を受ける可能性」などの
意味で用いられます。

これをそのまま投資にあてはめれば、「リスク=結果として損失を被ること」です。

要するに、100万円で購入した金融商品が、換金したときには80万円にしか
ならなかった、というような意味です。

ところが投資のリスクは、「将来的に得られるリターンが大小にぶれること、
あるいはそのぶれ幅」という意味で用いられます。

いま、あえて「リターン」という言葉を使いました。

ここには「利益」や「収益」を使っても差し支えないのですが、より正確を
期すならば、やはり「リターン」を使うべきでしょう。


私たちの日常的な感覚では、リターンは「利益」や「報酬」などの意味になります。

ところが投資のリターンは、「投資の結果として生じる損益」を意味します。

「マイナスのリターン」という使い方があるように、投資の世界では結果として
利益を得ても損失を被っても、同じくリターンとみなすわけです。


まとめると、以下のようになります。

●投資の世界では、投資の結果として生じる損益を「リターン」と呼ぶ。

●将来的にリターンが大小にぶれること、あるいはそのぶれ幅を「リスク」と呼ぶ。

ここで注目したいのは、リスクがリターンの「振れ幅」ではなく、
「ぶれ幅」だということです。

ぶれ幅というからには、何から「ぶれる」のか、その基準になるものが
存在するはずです。

結論からいうと、その基準とは「予想されるリターンの平均値」です。

 

標準偏差でリターンの「ぶれ具合」を示す

 

ここからかなり、ややこしい話になります。

投資の世界ではまず、過去の値動きなどの統計データから、
「〇年間という一定の期間中に得られたリターンの平均値」を割り出し、
それをもとに「〇年後の将来に予想されるリターンの平均値」を定めます(1)。

次に、過去に記録された実際のリターンが、統計的なリターンの平均値から見て、
どれぐらい「ぶれていたか」を検証し、その「ぶれ幅」についても平均値を求めます。
それを標準偏差で示したものが、投資のリスクにあたります(2)。

たとえば証券会社が、金融商品のリスクとリターンを顧客に説明する場合、
リスクについては上記の(2)を、リターンについては上記の(1)を、
それぞれ使って話をすることになるわけです。

具体的には、投資のリスク(標準偏差)とリターン(平均値)の数値を用いて、
将来的なリターンがどのような範囲内に、どのような確率で収まるかという
「リターンの確率分布」を求めることができます。

ある金融商品で1年後に予想される平均リターンがプラス10%で、
標準偏差が10だとします。

その場合、1年後に得られるリターンの確率分布は、以下のようになります。

●リターンが+20%~0%の範囲に収まる確率は68.3%
●リターンが+30%~-10%の範囲に収まる確率は95.5%
●リターンが+40%~-20%の範囲に収まる確率は99.7%

これはリターンのぶれ幅の大きさと、それが現実に起こる確率を段階的に
示しているわけですが、こんな風に数字を並べて見せられても、何のことだか
イメージしづらいと思います。

そこで、数字からはしばらく離れて、リスクとリターンの話を「野菜の収穫」に、
たとえてみることにします。

ある農家が親子代々、過去50年にわたって野菜をつくってきたとしましょう。

50年も続けていれば、たとえば「きゅうり」が平均して毎年どれぐらい
収穫できるのか、つまりは収穫量の平均値をデータとして割り出すことが
できるはずです。

その平均値をもとに、来年のきゅうりの収穫量についても、だいたいの目星を
つけることができます。

きゅうりの収穫量をリターンと定義するならば、来年に予想されるリターンの
平均値について、農家は事前に把握することができるわけです。


しかし、年によっては思いがけず雨が少なかったり、病害虫が大量に発生したり、
巨大台風の被害に遭ったり、さまざまな要因で収穫量が例年を下回ることもあります。

反対に、思いがけず収穫量が例年を大きく上回ることもあります。

※現実の農業では、作物が穫れすぎて値崩れを起こしてしまう「豊作貧乏」という言葉もあるように、
 収穫量の増減がそのまま農業におけるリターンの増減につながるわけではありませんが、ここでは
 話を分かりやすくするために、あえて収穫量=リターンとしています。

収穫量が例年を上回ったり下回ったりする、つまりはリターンが平均値からぶれる、
そのぶれ幅についても、過去50年間のデータからさまざまなことが分かるはずです。

1年間で収穫量が最大どれぐらい平均値から上下にぶれる場合があるのか、
それを10年間とか20年間ぐらいの期間でみると、その期間中の合計収穫量は
おおむね平均値に近づいていくのか--などなど。

〇年間におけるきゅうりの収穫量が平均値からぶれる、その「ぶれ具合」が、
きゅうりの収穫量に関するリスクとなるわけです。