解✦談

解りやすく、解きほぐします。

金(ゴールド)の価格について考える

有事と円安により、国際・国内価格とも上昇

 

金(ゴールド)の価格には、国際価格と国内価格(小売価格)の2種類があります。

世界的な取引の基本になる国際金価格は、トロイオンス(約31.1グラム)という
重量単位あたりの、ドル建て価格で表示されます。

それをグラムあたりで円建てに換算し、調達コストなどを加えたものが
国内金価格となります。

最近の価格水準と、過去の価格推移を見てみましょう。

なお、国際金価格として、ここでは金の現物価格の国際指標となる
ロンドン市場の金価格を取り上げます。

今年(2021年)11月18日時点で、国際金価格は1トロイオンス=1860ドル台、
国内金価格は1グラム=7500円台となっています。

いまから14年以上前の2007年8月には、国際金価格は600ドル台、国内金価格は
2000円台にすぎませんでした。

そこから08年のリーマン・ショック金融危機を経て、両価格とも上昇傾向を
強めていきます。

たとえば19年12月の時点では、国際金価格が1400ドル台、国内金価格が
5000円台まで上昇していました。

20年に新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化すると、金価格の上昇レベルは
さらにアップします。

国際金価格は20年8月に、2067.15ドルの史上最高値を記録します。

国内金価格は、まず20年4月13日に6513円(消費税込み)を付けて、消費税導入前の1980年1月に記録した6495円という史上最高値を40年ぶりに更新しました。

その後も国内金価格の上昇は続き、20年7月には初めて7000円の大台を突破。
8月7日には7769円の史上最高値を記録しています。

金はその昔から、有事の際に資産の一部を緊急避難させたり、資産全体の
目減りを
防ぐ「守りの資産」としての機能が注目され、世界中の資産家や
投資家に重宝されてきました。

金には、世界の投資家がリスクオフ(リスクを避ける)の姿勢を強めたときに
買われやすく、リスクオン(リスクを取る)の姿勢を強めたときに売られやすい
性質があるわけです。

上記のリーマン・ショック金融危機、あるいは新型コロナウイルスの感染拡大は、
まさしく世界的な有事であり、それらが国際金価格の上昇に大きく影響したことは
間違いありません。

ただし、国内金価格については少し事情が異なります。

国内金価格はトロイオンスあたりのドル建て価格を、グラムあたりの円建て価格に
換算するため、為替変動の影響を受けるのです。

ドル建ての国際金価格が変わらない場合、円安になると国内金価格は上昇し、
円高になると下落するのは、他の外貨建て金融商品と同じ理屈です。

実際に07年8月~12年8月の5年間で、それぞれの価格について月間平均値の
推移を見てみると、国際金価格が2.4倍まで上昇したのに対して、国内金価格は
1.6倍の上昇にとどまっています。

これはその間、円・ドル為替レートが32%の円高になった影響です。

12年8月の円・ドル為替レートの月間平均値は、おおむね1ドル=80円でした。

今年11月18日時点の為替レートは1ドル=114円なので、12年8月から42%の
円安が進んだことになります。

現在、国内金価格が再び史上最高値に近づいているのは、こうした最近の円安傾向も
関係しているわけです。

 

各国通貨の弱体化と利上げの綱引き状態

 

国際金価格が上昇している背景について、もう少し考えてみます。

金に「守りの資産」としての機能があるのは、ひと言でいうならば、
世界中のどの通貨とも交換できるからです。

金は各国の通貨のように発行体を持たず、信用リスクもないため、宝飾品や
投資商品であると同時に、いわゆる「代替通貨」や「無国籍通貨」としての
性格も強いのです。

いま世界の基軸通貨は米ドルなので、とりあえず米ドルを持っていれば、
世界中のどこへ行っても買い物ができるし、投資もできます。

しかし、世界中の資産家や投資家たちは、米ドルの価値が下がった場合に備えて、
たとえばユーロなど他の通貨も持っておきたいと日ごろから考えています。

そして、米ドルもユーロも価値が下がる可能性が出てきた場合には、
いまのところ、これらに匹敵する他の通貨はないため、資産の一部を
一時的にであれ、金に換えておこうと考えるわけです。

同じように国家も、外貨準備として日ごろから米ドルやユーロなど複数の通貨を
保有していますが、そこに金も加えることで、外貨準備の保全を図っています。

さて、リーマン・ショック金融危機、そして新型コロナウイルスの感染拡大は、
世界にどのような事態をもたらしたでしょうか。

まず目立つのが、先進国を中心に、各国の中央銀行が大規模な金融緩和を
おこなったことです。

金融緩和とは極端な言い方をすれば、新たに紙幣を刷りまくって世の中に
ばらまくようなものです。

そこにコロナ禍対応として、各国の大規模な財政出動も加わります。

財政出動の財源は、その多くが借金(国債発行)でまかなわれます。

日米欧の先進国が金融緩和を続ければ続けるほど、財政出動の大盤振る舞いを
すればするほど、自国通貨である円やドル、ユーロの価値は薄まり、世界的な
信用は低下していきます。

過去10年ほどの間に、金価格はドル建てもユーロ建てもポンド建ても、
そして円建ても過去最高値を更新しました。

金が各通貨建ての過去最高値を更新するということは、逆にいえば、
金に対して各通貨が過去最安値になったことを意味します。

通貨の価値が下がると、何が起こるでしょうか。

ひとつには、通貨に対する信用不安から資金が逃げ出し、通貨安につながる
恐れがあります。

そしてもうひとつ、一般的にはインフレになりやすくなります。

先進国では長らくインフレをイメージしづらい状況が続いてきましたが、
コロナ禍から世界の社会と経済が正常化に向かう過程で、現在の米国のように
インフレ懸念が高まりつつある国もあります。

金はそもそも「インフレに強い資産」として知られており、代替通貨としての
役割も含めて、金が世界から注目されやすい舞台は整っているといえます。

注意が必要なのは、金が金利を生まない資産」であるということです。

米国が来年にも利上げを検討しているように、インフレ対策として各国が
利上げをおこなうと、金利が付く他の金融資産の投資魅力が高まるため、
相対的に金の魅力は弱まります。

大ざっぱにまとめると、国際金価格については各国通貨の弱体化という
長期的な上昇要因と、利上げが近いという短期的な下落要因が綱引きを
しているような状態であり、先行きを読むのは難しい展開となっています。