解✦談

解りやすく、解きほぐします。

為替について、何をどう考えるか?

円高は輸入に、円安は輸出や海外投資に有利

 

私たち日本人が「為替」と聞いてまず思い浮かべるのは、「円高」あるいは
「円安」という言葉でしょう。

そもそも円高や円安は、私たちの日常生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

一般によく言われるのは、こんなことです。

円高になると → 輸入品が安くなったり、海外旅行先で安く買い物ができるといった
  メリットがある。

●円安になると → 私たちが海外の金融商品に投資している場合、リターンが増加する
  メリットがある。

上記のメリットは、円高と円安が逆になれば、そのままデメリットとなります。

また、輸出で稼ぐ日本企業にとっては、円高は売り上げが減少するので
デメリットとなり、円安はその反対でメリットとなるというのが一般的な説明です。

いまさらという感はありますが、こうした関係について、具体的な数字を使って
確認しておきます。

まず、輸入と輸出について。

現在の為替レートが1ドル=100円だったとして、日本が米国から、
ある製品を100ドルで輸入したと仮定します。

このとき、日本から米国に支払う円の金額は「100円×100ドル=1万円」です。

為替がその後、1ドル=90円まで円高になった場合、同じ製品を100ドルで
輸入すると、支払う円の金額は「90円×100ドル=9000円」で済むことになります。

つまり、輸入では円高が進むと有利になるわけです。

現在の為替レートが1ドル=100円だったとして、日本が米国に、
ある製品を100ドルで輸出したと仮定します。

このとき、米国から日本に支払われる円の金額は「100円×100ドル=1万円」です。

為替がその後、1ドル=110円まで円安になった場合、同じ製品を100ドルで
輸出すると、日本が受け取る円の金額は「110円×100ドル=1万1000円」まで
増えることになります。

つまり、輸出では円安が進むと有利になるわけです。


次に、私たちが海外の金融商品に投資する場合。

為替レートが1ドル=100円のときに、ある米国株を100ドルで購入したと仮定します。

このとき、私たちが支払う円の金額は「100円×100ドル=1万円」です。

為替がその後、1ドル=110円まで円安になってから、私たちがその米国株を
換金すると、どうなるでしょうか。

米国株の株価が購入時と同じく100ドルだった場合、私たちの手元には
「110円×100ドル=1万1000円」が戻ってきます。

現地の通貨建ての株価(上記の例では米国ドル建ての株価)がまったく動いて
いなくても、単に為替レートが円安になっただけで、それを換金して円建てに
戻したときの金額は自動的に増えることになります。

つまり、私たちが海外の金融商品に投資する場合には、円安が進むと
有利に
なるわけです。

 

実際に円安が進むまで海外資産を持ち続ける

 

さて、こうした為替に関する基本的な事項を確認したうえで、
改めて考えてみたいことがあります。

私たち日本の個人が、円以外の外貨や、外貨建ての金融商品に投資する
意味とは何でしょうか。

以下のような内容が考えられます。

①為替レートの変動を利用して、為替差益を得る(投資収益の追求)

②海外の株式や債券などに投資することで、日本国内よりも高い投資収益や
 金利収入をねらう(投資効率の向上)

③将来的な円安やインフレなどによる円の購買力の低下に備えて、
 円以外の通貨も持っておく(リスクの回避)

①の為替差益とは前述のとおり、私たちが海外の金融商品に投資している場合に、
為替レートが円安になれば自動的に得られる「リターン増加分」のことです。

②は要するに、海外には日本国内よりも高いリターンが期待できる株式や
債券があるので、それらにも分散投資することで、全体的な投資成績の底上げを
図りましょうということです。

私たちはふつう、最終的には海外の金融商品を換金して、円に戻して使おうと
思うはずです。

その場合、円高になるとその分だけ自動的にリターンが削られて、たとえ海外の
金融商品から高いリターンが得られたとしても、それが台無しになってしまう
恐れがあります。

だから、②については為替レートが将来的に少なくとも現状維持か、できれば
円安になることが条件といえます。

③については、日本の食料自給率が37%(2020年度、カロリーベース)、
エネルギー自給率が11.8%(2018年度)といった数字が大いに関係してきます。

日本は食料の6割以上、石油や天然ガスなどエネルギー資源の9割近くを
海外からの輸入に頼っていることになりますが、それらの輸入代金は
世界の基軸通貨である米ドルで支払われるのが一般的です。

将来的に円安が進むと、食費や電気・ガスなどの公共料金といった日常生活に
欠かせないコストが値上がりして、私たちの家計が圧迫される恐れがあります。

その際に、資産の一部を外貨建てで持っていれば、円による支出の増加分を、
円安による外貨建て資産の値上がり分によって補うことが可能になります。

逆にいうと、将来的に円安やインフレにならない可能性が高いのならば、
わざわざ為替変動リスク(円高になるとリターンが削られるリスク)を
負ってまで、外貨を持つ意味はありません。


こうしてみると、私たち日本の個人が外貨や外貨建ての金融商品に投資するのは、
あくまでも将来的に円安が進むことを前提にしていることになります。

高い確率で将来、いまよりも円安になりそうだから、それを利用して投資の
リターンを増やす(上記の①②)と同時に、円安による購買力の低下にも
備える(上記の③)ことが、外貨や外貨建ての金融商品に投資することの
意味であり、目的でもあるわけです。

その目的を十分に果たすためには、日常生活のなかでよほど緊急の資金需要が
発生するなどの事情がないかぎり、当初の前提どおりに円安が進む日まで、
私たちはいちど投資した外貨や外貨建ての金融商品を持ち続けるべきでしょう。

ところで、為替の動きを予測するのは専門家でも難しいと言われています。

一般論としては、少子高齢化が進むなかで日本の経済成長率がこれから
鈍化していくことは避けられないため、中長期的にみて予想以上の円安になる
可能性があることは確かでしょう。

しかし実際に円安が進むとしても、それがいつ頃、どの程度まで進むのか、
現段階では誰にも分からないのが実情なのです。

だとすれば、とりあえず将来的な円安に備えて、無理のない範囲で準備だけは
整えておくというのが、私たちにとってのベストな選択ではないでしょうか。

予想以上の円安になるまでの期間において、私たちが投資に万全を期すという
意味では、日本国内の株式や債券への投資もやっぱり必要です。

と同時に、投資資金の一部を海外の株式や債券にも振り向けておく。

結局のところ、こうした国際分散投資の考え方が、最も無難かつ、最も有効な
手段といえるような気がします。