投資の世界になじむ方法
ファンド格付けを利用する
私たちが証券会社や銀行などでふつうに購入できる投資信託は、だいたい
5000本程度あるといわれています。
それらを投資対象や投資方針などに沿って、いくつかのカテゴリーに分類し、
カテゴリーごとに各商品の格付けをおこなっているのが、投信評価会社です。
投資信託それぞれについて、格付けは星の数などで表されますが、そこには
過去1年や3年、10年といった期間ごとに、その投資信託が記録してきた
リターン実績なども示されています。
こうした格付けは、数ある投資信託のなかから、私たちが購入すべき商品を
選ぶ際の参考になります。
同時にまた、私たちは格付けをひとつの取っかかりとして、投資や金融の世界に
なじんでいくことも可能だと思います。
複数の投資信託についてリターン実績などを比較する過程で、さまざまな気付きが
生まれるほか、見慣れない専門用語などについて調べる機会も出てくるからです。
投信評価会社として有名なモーニングスターの格付けを使って、
実際にどのような手順で投資信託の比較をおこない、どのような発見や知識が
得られるのか、試してみたいと思います。
モーニングスターのサイトで「投資信託」のページを開き、上部にある
「ファンドを探す」というボタンから「商品名、販売会社から選ぶ」という
項目を選ぶと、「商品名、販売会社で検索」というページが出てきます。
(ファンドとは、投資信託のことです)
商品名の欄に、たとえば「つみたてNISA」の対象商品になっている
『たわらノーロードTOPIX』を入れて、検索してみます。
「ファンド検索結果」のページで、ファンド名の『たわらノーロードTOPIX』を
クリックすると、「スナップショット」という商品概要が掲載されたページが
出てきます。
そこでは、この商品が「国内大型ブレンド」というカテゴリーに分類され、
格付けが「★★★」で、信託報酬が年0.19%であることなどが確認できます。
カテゴリーの「国内大型ブレンド」とは何なのか気になりますが、
後で調べることになるので、ここではスルーしておきます。
基準価額の下部にある「リターン」をクリックすると、過去の期間別に1カ月、
3カ月、6カ月、1年、3年(年率)、5年(年率)、10年(年率)の
トータルリターンを一覧できるページが出てきます。
『たわらノーロードTOPIX』は設定から5年が経っていないので、
トータルリターンの記載は「3年(年率)」までです。
「トータルリターン」については、
(評価金額+受取分配金の累計+売却金額の累計)-購入金額の累計
などと、投資関連の雑誌などには書いてあります。
これでは何のことだかよく分かりませんが、要するに、一定期間内に投資信託から
得られた利益を、受け取った分配金や一部売却による換金分、負担したコストを
含めて総合的に計算したものです。
これに対して、いわゆる「騰落率」は、一定期間内に投資信託の基準価額が
どれだけ上下したかを表すものであり、その計算には分配金や手数料などは
含まれていません。
ところで、『たわらノーロードTOPIX』は、TOPIXに連動するインデックス型の
投資信託です。「つみたてNISA」の対象商品から同じタイプの投資信託を選んで、
リターンを比較してみることにします。
「商品名、販売会社で検索」というページの商品名の欄に、たとえば
『ニッセイ TOPIXオープン』と入れてみます。
こちらは信託報酬が年0.55%と、『たわらノーロードTOPIX』より高くなっています。
今年7月31日時点のトータルリターン実績を2つの投資信託で比較すると、
過去1カ月から3年(年率)までの全期間で『たわらノーロードTOPIX』の方が若干、
リターンが高くなっています。
その差は明らかに、信託報酬率の違いからくるものでしょう。
大型株とブレンドスタイルの意味
『たわらノーロードTOPIX』のリターンで過去3年(年率)の欄を見ると、
トータルリターンが4.99%、カテゴリーが5.16%、順位が180位、ファンド数が
327本と書いてあります。
これはつまり、「国内大型ブレンド」というカテゴリーに分類され、
過去3年以上の投資実績をもつ投資信託は327本あり、それらの平均リターンが
5.16%で、『たわらノーロードTOPIX』のリターン水準は上から180番目だった、
ということです。
それでは、「国内大型ブレンド」というカテゴリー内でリターン水準が上位の
投資信託とは、どんな商品なのでしょうか?
もういちど投資信託のページに戻って、上部の「ファンドを探す」という
ボタンから「詳細条件からファンドを選ぶ」という項目を選ぶと、
「詳しく条件を設定して検索(詳細検索)」というページが出てきます。
ファンドタイプという項目のカテゴリー欄で「国内大型ブレンド」を選び、
ファンド種類の欄で「ETF・DC専用・SMA専用を除く全ファンド」という
項目にチェックを付けて、検索を実行します。
検索を実行する前に、ここで少し寄り道をしてみます。
ポートフォリオという項目の「株式の場合、投資スタイル」という欄を見ると、
そこには大型株・中型株・小型株とバリュー・ブレンド・グロースが
マトリックスになった四角形が書いてあります。
このことから、「国内大型ブレンド」とは日本国内の株式のうち、
規模でいえば大型株に、投資スタイルでいえばバリューとグロースの
両方(ブレンド)に該当する銘柄を指すことが分かります。
また、そのような銘柄を投資対象とする投資信託を、「国内大型ブレンド」に
分類しているのだろうということが推測できます。
「大型株」について調べてみると、おおむね次のようなことが分かります。
●大型株とは一般に、時価総額が大きく、流動性が高い銘柄のことを指す。
●発行株式数、売買量ともに多いため、相対的にみて株価が大きく変動する
ケースは少ない傾向にある。
●東京証券取引所では、東証1部上場銘柄を時価総額の大きさと流動性の高さで
3つのグループに分類し、上位100位の銘柄までを大型株、それに次ぐ
400銘柄を中型株、大型株と中型株以外の銘柄を小型株と定義している。
東京証券取引所の定義によれば、TOPIXの対象となる東証1部上場銘柄には
大型株、中型株、小型株のすべてが含まれることになります。
すると、TOPIXに連動するインデックス型の投資信託を、モーニングスターが
「国内大型ブレンド」に分類しているのはおかしいことになりますが、
TOPIXにおける銘柄の構成比率は時価総額に比例して大型株ほど大きくなるため、「TOPIXは、ほぼ大型株」とみなしているのだと思われます。
バリューとグロースについては、以下のような説明が一般的です。
●バリュー株(割安株)とは、売り上げや利益の成長がさほど期待できないなどの
理由により、現時点の株価が本来的な企業価値を考慮した水準に比べて
安い(割安)と考えられる銘柄を指す。知名度の低い企業が多いことから、
堅実経営を続けているような場合でも、投資家の人気は低くなりがち。
●グロース株(成長株)とは、売り上げや利益の成長率が高く、その優れた
成長性ゆえに今後の株価上昇が期待されるような銘柄を指す。革新的な商品や
サービスによって市場シェアを拡大し、増収増益を続けているケースが多く、
一般に投資家の人気が高いという特徴がある。
日本株では、たとえば三菱商事などの大手商社は「万年バリュー株」と
呼ばれているし、最近のグロース株としてはモーターメーカーの日本電産や、
工場自動化(FA)のキーエンスなどが注目されています。
いずれもTOPIXを構成する銘柄なので、TOPIXにはバリュー株とグロース株の
両者が混在していることが分かります。
つまり、TOPIXに連動するインデックス型の投資信託は、投資スタイルでいえば
「ブレンド」に分類されるわけです。
さて、「詳細条件からファンドを選ぶ」から「国内大型ブレンド」を選択して
検索を実行すると、格付けの高い順にずらっとファンド名が出てきます。
上の方に『コモンズ30ファンド』というファンド名がありますが、これは実は
「つみたてNISA」の対象商品であり、しかも対象商品のなかでは数が少ない
アクティブ型の投資信託です。
ファンド名をクリックして内容を調べると、信託報酬が年1.08%、
購入時手数料率(販売手数料率)が3.3%などと書いてあります。
リターンのページを見ると、トータルリターンは1年が35.40%、
3年(年率)が7.76%で、『たわらノーロードTOPIX』の29.53%(1年)、
4.99%(3年年率)を上回っています。
また、10年(年率)も12.15%で、『ニッセイ TOPIXオープン』の10.36%を
上回っています。
TOPIXに連動するインデックス型の投資信託が、原則としてTOPIXを構成する
2000銘柄以上に投資するのに対して、『コモンズ30ファンド』は常に
30銘柄程度にしか投資しないようです。
「スナップショット」のページから「目論見書」という項目を選んで、
「月報」のPDFを開くと、それぞれの投資信託について、今年7月末現在の
組入上位10銘柄を見ることができます。
『たわらノーロードTOPIX』と『ニッセイ TOPIXオープン』は、同じTOPIX連動型の
商品なので、当然のことながら組入上位10銘柄も同じです。
一方で『コモンズ30ファンド』の組入上位10銘柄を見ると、いずれも
東証1部上場銘柄なのですが、TOPIX連動型の上記2本とは1銘柄が同じだけで、
9銘柄は異なっています。
これらのことから、『コモンズ30ファンド』のいわば「30銘柄厳選投資」は、
いまのところ功を奏しており、販売手数料や信託報酬というコスト面の
不利にもかかわらず、TOPIXに連動するインデックス型の投資信託を上回る
リターンをあげることに成功していることが分かります。