解✦談

解りやすく、解きほぐします。

投資の情報は「使えない」のか?

難しくて、ニーズにも合っていない

 

いま世の中には、「投資」や「株式」「投資信託」などに関連した書籍、雑誌、
さらにはネット上の記事があふれかえっています。

コロナ禍で自分についても社会についても、将来が見通しづらくなるなか、
新たに投資を始めようと考える人も増えているようです。

そんな投資の初心者にとって、ちまたの情報が本当に有用かといえば、
なかなかそうとも言い切れないのではないでしょうか。

ポイントは2つあると思います。

ひとつは、投資に関する情報が、初心者にとっては理解しがたいこと。

投資や金融についての聞き慣れない専門用語はもちろん、小難しい
セオリー(理論)のような話がたくさん出てくるうえに、それらが一般の
人びとでも分かるレベルまで、十分にかみ砕かれていないケースが目立ちます。

そこには、人間が陥りやすい「認知バイアス」(偏見や先入観などによる
非合理な判断)が関係しているのかもしれません。

今年の4月に発刊された『認知バイアス事典』(フォレスト出版)という本には、
こんなことが書かれています。


●知識の呪縛

さまざまな分野において、知識を持っている人は「自分が知っていることは
他人も知っているだろう」と思い込み、知識を持たない人の立場から物事を
考えることが難しくなってしまう現象。


金融業界はいまでこそ「貯蓄から投資へ」などといって、一般の人びとの間にも
投資を普及させようと躍起になっていますが、それもここ15年ぐらいの話です。

かつては一部の金持ちや投資マニアを相手に、悪い言い方をすると「殿様商売」を
やっていれば済んだので、そもそも一般向けに話をするのが不得手なのでしょう。

ただし、この問題については若干、いたし方ないと思える部分もあります。

科学(サイエンス)の分野も同じですが、ある現象なり考え方なりを説明する場合に、
相手が最低限の知識と理解を持ち合わせていないと、どうしてもそこから先の話に
進めないということが起こりがちです。

投資に関する話は、私たちがふつうに生活するうえでは必要ないものであり、
よほど興味をもって接しなければ、知識も理解もなかなか得られないのでは
ないでしょうか。

その意味では、一般の人びとに投資への興味を持たせるような努力や工夫が、
金融業界には足りなかったということもできそうです。

 

もうひとつのポイントは、投資に関する情報が、初心者の素朴なニーズに
マッチしていないこと。

投資の初心者にかぎらず、人びとが本当に知りたいのは結局のところ、
「どの株式や投資信託を買えば儲かりそうなのか」ということでしょう。

しかし、それを「万人に共通の普遍的な情報」として公に提供するのは
難しいのが現実です。

これから何年ぐらいの時間をかけて、どれぐらいの利益を得たいのか、
購入から売却までの過程で価格がどの程度、上下に動いても許せるのかなど、
人によって投資のニーズは異なります。

つまり、一人ひとりの個人ごとに、購入に適した金融商品は異なるのです。

また、金融商品は何種類かを組み合わせることによって、最終的な利益が
安定したり、投資期間中の価格変動幅が小さくなるなど、ひとつの
金融商品だけでは得られないような効果が生じる場合があります。

こうしてみると、投資の世界では「どれを買えば儲かりそうなのか」よりも、
「自分が買うべきなのは、どれと、どれなのか」という観点の方が重要だと
考えられます。

情報を提供する側からすれば、個人の投資相談に乗るようなかたちで、
一人ひとりに適した金融商品を紹介することは可能だとしても、
投資ニーズがまちまちな多くの人を相手に「万能なお薦め商品」を
紹介することは、困難かつ無責任といえるわけです。

 

購入を進める過程で情報に目がいく

 

投資とギャンブルを一緒にするなと言われそうですが、私は競馬が好きなので、
無理を承知で競馬というギャンブルに照らし合わせながら、投資の情報についても
考えてみたいと思います。

競馬新聞やスポーツ新聞の競馬欄には、膨大な情報が掲載されています。

ギャンブルのなかでも、とくに競馬は事前に検討する項目が多いことで有名です。

過去3~5走の成績、ローテーション、馬体重、調教、持ちタイム、血統、馬場適性、
コース適性、距離適性、騎手、負担重量、レース展開、脚質、枠順、予想オッズ…。

私がひとつのレースごとに、日常的に検討している項目は、ざっとこれだけあります。

そこに厩舎のコメントや、トラックマン(予想者)の印、予想内容などが加わります。

はたして競馬の初心者は、こうした情報の意味を理解し、使いこなすことが
できるでしょうか。

私も最初は、競馬新聞のどこをどのように見て、何をどう理解すればいいのか、
まったく分かりませんでした。

投資と同じで競馬にも、聞き慣れない専門用語がたくさん出てくるし、何度も
馬券を買って経験を積まないと理解できないセオリーのようなものもあります。

幸か不幸か、私は「はずれ馬券」という授業料を払いながら、徐々に自分が
競馬の世界になじんでいくことを、嬉しく楽しく感じることができました。

だからこそ、さまざまな項目を検討すること、つまりは競馬の学習を続けることが
できたのだと思います。

競馬のレースは、おおむね1分~3分程度の時間で決着がつきます。

競馬という勝負の結果は、1レースの単位でいえば、非常に短期で出るわけです。

投資という行為は、その意味するところがギャンブルとは違うので、
もちろん同列で比較することはできません。

でも、あえて言うならば、デイトレードのような一部の例外を除いて、
投資は結果が出るまでにそこそこ長い時間がかかります。

たとえば10年後にようやく結果が出るような行為について、あれこれ学習したり、
知識を身に付けたりするのは、面倒くさくて意味のないことだと思う人が
多いかもしれません。

だから、手っ取り早く儲かりそうな金融商品があるなら、それを知りたいという
気持ちはよく分かります。


私はたまたま若い頃から競馬に親しんでおり、仕事で投資や金融の情報に
触れる機会が多かったので、競馬と同じような感覚で、投資や金融の学習も
続けることができました。

しかし、そういう環境に恵まれていなかったら、たぶん私も面倒くさがって、
興味を持てなかったような気がします。

最近はインデックス型の投資信託を何本か選んで、ひたすら積み立てる
「ほったらかし投資」という考え方がある程度、支持されているようです。

どうしても投資や金融について考えることが面倒くさく、ほったらかした結果が
どうなっても構わないという人は、それでいいのだと思います。

そういう人は恐らく、最初に選んだ商品以外に、新たに他の投資信託
購入する気はないのでしょう。

一方で、いろいろなタイプの投資信託を購入して、どういう商品の組み合わせが
よりベターなのか、試してみたいという人もいるはずです。

投資や金融の世界になじむためのヒントは、その辺りにあるのかもしれません。

1本目から2本目、3本目と購入を進めていく過程で、投資に関する
自分の好みや傾向のようなものが分かってくるし、過去に購入した商品が
「なぜ儲かったのか」や「なぜ儲からなかったのか」といったことも、
気になってくるはずです。

そうなって初めて、小難しくて面倒くさい投資や金融の情報にも、
自然と目が向いていくのではないでしょうか。