解✦談

解りやすく、解きほぐします。

数値にまつわる意外な話

アキレスと亀」は時間限定の話だった⁉


まずは子どもの頃、よく耳にした話を2つ。

ひとつはアキレスと亀です。

アキレスの100m前方に亀がいます。

極端なたとえですが、アキレスは1秒間に10m進み、亀は1秒間に
1m進むとしましょう。

アキレスが10秒間に100m進んだとき、亀は10m先にいることになります。

そこからアキレスが1秒間に10m進むと、亀は1m先にいることになります。

さらにアキレスが0.1秒間に1m進むと、亀は10㎝(0.1m)先にいることになります。

この関係がずっと繰り返されるため、アキレスは亀に永遠に追いつけない、
という内容です。

最近になって知ったことですが、この理屈は意外にも、数学的には正しいそうです。

要するに、アキレスの進む距離を0.01秒間に10㎝、0.001秒間に1㎝と、
だんだん小さくしてみても、それにともなって亀もアキレスより1㎝先、
1㎜先にいることになります。

こうした時間と距離の「縮小」は無限に続けられるので、アキレスと亀の間の
距離がゼロになることはなく、いつまでたっても追いつけないというわけです。

ただし現実には、このようなことは起こりません。

アキレスはあっという間に亀に追いつき、追い抜いて行ってしまいます。

数学的に正しいけれど、現実とは矛盾する。

その理由は、この話が3つの時間のうち1つの時間内に限定されたものだから、
という説明になっています。

3つの時間というのは、以下のとおりです。

①アキレスが亀に追いつくまでの時間
②アキレスが亀に追いついた瞬間
③アキレスが亀を追い抜いてからの時間

アキレスと亀」の話は、このうち①だけを取り上げて考えているため、
アキレスが亀に永遠に追いつけない、ということらしいです。

そう言われてみれば、そリゃそうでしょう。

アキレスが亀に「追いつくまでの時間」と、わざわざ断っているのだから、
そこで追いついてしまったら、それこそ話が矛盾します。

現実の世界では、上記の①②③が連続した時間として成立し、そのなかで
アキレスと亀の位置関係を考えるため、アキレスが当然のように亀を
追い抜いて行くわけです。

解ったような、解らないような、ちょっとモヤモヤする話ですね。

2つ目は、「クラスで誕生日が同じ人のいる確率」です。

たとえば40人のクラスで、誕生日が同じ人のいる確率は、地道に計算すれば
求められます。

クラスに自分を含めて2人しかいない場合、自分からみて、もう一人の
誕生日が同じ確率は「1/365」です。

1年が365日あるのだから、これは当然でしょう。

逆に考えると、もう一人の誕生日が異なる確率は「1-1/365=364/365」
となります。

クラスが3人に増えた場合は、3人目が最初の2人のどちらかと誕生日が同じ
確率は「2/365」なので、逆に最初の2人のどちらとも誕生日が異なる確率は
「1-2/365=363/365」となります。

結果として、3人の誕生日がすべて異なる確率は「364/365×363/365」です。

これを40人の場合まで掛け合わせていきます。

つまり、「364/365×363/365×……×326/365」を計算すると、
40人のクラスで全員の誕生日が異なる確率が求められます。

それを1から引いたものが、40人のクラスで誕生日が同じ人のいる
確率となります。


なんと、意外にも89%という高確率です。

この確率はクラスの人数が多いほど高くなり、50人クラスでは97%となります。

23人まで人数が少なくなって、ようやく50%です。

感覚的にはこれでも高い確率のように思えますが、まあ現実というのは、
案外そんなものなんでしょうね。

 

宇宙空間では数値のぶっ飛び方がひと味ちがう

 

子どもの頃に読んだ宇宙関連の本のなかで、いちばん衝撃を受けたのは、
「地球上にいる私たちは永遠に月の裏側を見ることができない」という事実でした。

その理由は、月がいつも片面だけを地球に向けているから。

これは月の公転周期(地球のまわりを一周する時間)と、
月の自転周期(月自身が1回転する時間)が、ともに27.3日と
同じだからです。

たとえば、私たちがある場所に立っていて、360度の全方位を見渡せるとしましょう。

自分のまわりを、友人が「必ず同じ方角を向きながら1周する」場合を考えます。

このとき、自分から見える友人の姿は、「前身」「側面(右側)」「後ろ姿」
「側面(左側)」の大きく4種類に分かれます。

ところが、友人が必ずこちらに対して「前身」の決まった部分だけを見せるように、
少しずつ身体を回転させながら動いたとしたら、自分のまわりを1周する間に見える
友人の姿はずっと同じになります。

こんなややこしいことが、地球と月の間では実際に起きているのです。

なぜ、そんなことになるのかという説明を読んでも、私にはいまいち
ピンときませんでした。

説明を要約すると、こんな感じです。

●地球の引力や、月が地球のまわりを公転する際に生じる遠心力によって、
  月の形は地球に向かって微妙に伸びている(楕円形になっている)。

●月の自転速度が速くなって、伸びている方向が地球からずれると、
  地球の引力がそれを引き戻すように働いて、月の自転速度が遅くなる。

●月の自転速度が遅くなった場合には、これと反対のことが起きて、
  月の自転速度が速くなる。

●そのようにして月の自転速度が調整され、伸びている方向が常に
  地球を向くようにコントロールされている。


ということは、もともと月の公転周期は27.3日と決まっていて、
自転周期はそれに近い、異なる数値だったのだと思われます。

それが、地球の引力によって、27.3日に固定されるようになっていった。

だから、結果として月の公転周期と自転周期が同じになったのだと。

理屈としては解ったようにも思うのですが、本当にそんな「数値の偶然の一致」の
ようなことが起こるのか、なんだか狐につままれたような気分になります。

宇宙関連でもうひとつ、太陽の内部構造についてです。

太陽の内部は、内側から順に「中心核」「放射層」「対流層」「光球」に
分かれていて、中心核の温度は1500万Kもあるそうです。

K(ケルビン)は温度の単位で、大まかにいうと「0℃=273K」の関係にあります。

なので、太陽の中心核は1500万℃あると考えればいいでしょう。

中心核では水素の核融合反応によって莫大なエネルギーが生み出されており、
そのエネルギーを放射によって外側へと運ぶのが、いわば放射層の役割です。

放射層は厚さが約40万㎞あり、非常に密度が高いため、中心核からやってきた
エネルギーが放射層を抜け出して対流層へ到達するのに、十数万年もかかるそうです。

まったく、狂ったような数値ばかり出てきます。

いちばん外側の光球で、ようやく温度は6000K程度となり、
これが太陽の表面温度とされています。

光球の上空には厚さが約2000㎞の低密度層があり、「彩層」と呼ばれています。

彩層は太陽の大気にあたるもので、温度はおおむね5000K程度。

さらに彩層の外側には、「コロナ」という希薄なガス層が高度数万㎞まで
広がっています。

不思議なのは、コロナの温度が100万K以上もあること。

光球よりもはるか上空にあって、宇宙空間に近いコロナが
どうしてこんなに熱くなるのか。

そのメカニズムは現代の最新科学をもってしても、いまだはっきりとは
解明されていないそうです。

さすがに宇宙空間では、数値のぶっ飛び方が、ひと味ちがうようですね。