地味だけれど隠れた名曲
おもに昭和時代の邦楽について、アーティストごとに私がいちばん
好きな曲をピックアップしてみました。
ちょっと地味で目立たないけれど、隠れた名曲が多いのではないかと
自分では思っています。
●アリス 《もう二度と…》
アルバム『アリスⅤ』に収録され、シングル《遠くで汽笛を聞きながら》の
B面にも収録されました。キーボードの音が哀愁を誘い、谷村新司による
歌詞はどこまでも切なく心に響きます。
♪ 約束はしていても しょせん男と女 好きというそれだけで暮らせない
♪ もう もう 引き止めないさ 飛び込んでゆくんだ彼の手に
もう もう 引き止めないさ さよなら もう二度と会いたくない
●甲斐バンド 《ブラッディ・マリー》
アルバム『この夜にさよなら』に収録。誰が何と言おうと、私はこういう
フォーク・ロック調の楽曲こそが、甲斐バンドの真骨頂だと思います。
《シネマクラブ》しかり、《東京の一夜》しかり。
別れた彼女との想い出がサラリと歌われる分、余計に哀しさが増してきます。
♪ ひとつのコートで寄り添った霧のような雨の日
♪ 揺れて消えていってしまった あの日の虹
●チューリップ 《Someday Somewhere》
アルバム『Someday Somewhere』に収録されたタイトル曲。今は亡き
安部俊幸のギターが美しい。財津和夫による歌詞は多少、説教くささも
あるけれど、クリスマスが近づくと必ず聴きたくなるラブソングです。
♪ 誰かに聞いたよ 別れてしまったと せっかくのクリスマスなのに
僕の家へおいでよ 幼なじみの話をしよう
♪ キャンドルライトが揺れるたびに 僕の心が激しく揺れて
抱きしめたいけど いまはただメリー・クリスマス
●浜田省吾 《ラストダンス》
アルバム『LOVE TRAIN』に収録。後にアルバム『Wasted Tears』で
セルフカバーされますが、私は元のバージョンの方が100倍好きです。
浜田省吾はやたらとセルフカバーやリアレンジをしたがりますが、
アルバム『Sand Castle』以外は必要なかったのではないでしょうか。
2番の歌詞は救いようがないけれど、人間の核心をついています。
♪ もう一度やり直せたら バカだぜ そんな話はもうやめよう
僕が僕であるかぎり 何度やっても同じことの繰り返し
浜田省吾は初期の方が断然、心に刺さる歌詞が多いように思います。
●風 《夜汽車は南へ》
とにかく出だしから、伊勢正三の歌詞がすごい。
♪ 愁いを残して夜汽車は南へ走る 時の流れと すれ違うように走る
静けさがいま友だちなら 黙って窓にもたれよう
そして、別れた「君」への想いがこんな風につづられます。
♪ ああ 人生が繰り返すものなら またいつか君に出逢うだろう
♪ ああ 遠ざかるほど君は近づく 僕の心のレールを走って
夜汽車に乗って走りながら、まるで人生の真理が明らかになって
いくような哲学性を感じます。
●中島みゆき 《時は流れて》
アルバム『あ・り・が・と・う』に収録。このアルバムは他にも
《遍路》《まつりばやし》《ホームにて》《勝手にしやがれ》など
名曲ぞろいで、私のなかでは中島みゆきの最高傑作です。
ラストに収録されたこの曲の歌詞は、最初から最後まですさまじい。
♪ あたし一人が変わってしまって あんたが何ひとつ変わらずにいたら
時はなんにも理由のない さびしい月日になりそうな気がして
♪ 時は流れて 時は流れて そしてあたしは変わってしまった
流れのなかで いまはただ祈るほかはない あんたがあたしを
こんなに変わったあたしを 二度と見つけやしないように
バックでは坂本龍一のジャージーなピアノが自由奔放に暴れまくります。
●オフコース 《でももう花はいらない》
デビューアルバム『僕の贈りもの』に収録。作詞・作曲・歌は鈴木康博。
ドラムスはアリスの矢沢透だそうです。イントロのギターが気持ち良く、
最後はサイモン&ガーファンクルの《ボクサー》を意識したかのように、
「♪ 花なんて大人に似合いはしない」という歌詞が連呼されます。
●グレープ 《追伸》
グレープで人気があるのは《精霊流し》や《無縁坂》《縁切寺》など、
マイナーコードの楽曲が中心ですが、私はこの曲のようにメジャーで
可愛くて、ちょっと切なくなるメロディが好きです。さだまさしの
バイオリンと吉田正美のギターが、良い感じに溶け合っています。
アルバム『センチメンタル』に収録。1997年に能古島へ行ったとき、
この曲がシングルCDとして売られていました。小高い山の上に
自然公園があるのですが、港からバスを使わずに徒歩で行ったら
2時間ぐらいかかって、ヘロヘロになったことを覚えています。
●ジッタリンジン 《一人きりのクリスマス》
アルバム『Moonlit Lane』に収録。1993年のリリースなので、この曲のみ
平成時代の作品です。ジッタリンジンのほとんどの曲を作詞・作曲している
破矢ジンタは、昭和の懐かしさにあふれた、心の琴線に触れる曲づくりの
名人だと思います。とくに間奏のギターが絶品。同じクリスマス・ソングでは、
《プリーズ キス ミー マイ サンタクロース》も昭和っぽくて好きです。