解✦談

解りやすく、解きほぐします。

かぐや姫・名曲選

2000年12月。

かぐや姫にとって2度目となる本格的な再結成コンサートを渋谷公会堂
観ることができて、私は極端にいえば、「もう思い残すことはない」という
心境にいたりました。

それから紆余曲折があり、結局は今日まで生き長らえてきたわけですが、
そんななかで、私のかぐや姫・フェイバリットソングにも若干の変化が生じました。

ここに挙げた10曲は、かぐや姫・名曲選であると同時に、現在の私にとっての
かぐや姫ベスト10」でもあります。

①置手紙(詞・曲/伊勢正三

若いころ、私がギターでいちばん練習した曲です。ミュージシャンをめざしていた
年下の友人に「他の曲はダメだけど、置手紙だけは歌もギターも上手い」と言われて
嬉しかったのを覚えています。いまはまともに弾けませんが。

私見ですが、松山千春の《恋》は、この曲へのアンサーソングだと思います。
松山千春がデビュー前から正ヤンを尊敬していたことを知って、そう確信しました。
「部屋の灯りをつけて出ていく」という設定が共通だし、なんといっても
《恋》の2番では、机に置かれた洗濯物に「短い置手紙」が添えられるのですから。

②春の陽だまりのなかで(詞/喜多條忠、曲/南こうせつ

なぜか不思議なグルーブを感じる曲。まるで、どこかから風が吹いてくるような…。

私が春の曲に感じるイメージには、そこに吹く風が「まだ冷たい」ものと
「暖かい」ものの2種類があります。この曲は後者の方で、たとえば
吉田拓郎の《春だったね》や、尾崎亜美の《春の予感》なども同類です。
桜が散って学校の始業式も済んだ、4月中旬ごろの風でしょうか。その点、
キャンディーズは《春一番》も《微笑がえし》も《あなたのイエスタデイ》も、
まだ風を冷たく感じる春の曲が多いですね。

③夏この頃(詞/伊勢正三、曲/山田つぐと)

友人が山で死に、母親が子犬を飼い、兄貴に子どもが生まれる。通り雨が過ぎて
夏の香りが残る--。歌詞のテーマはズバリ、「時の流れ」でしょう。

1970年代の前半には、若者が山で命を落とすニュースをしょっちゅう耳にしました。
私の叔父も大学4年の夏、ロッククライミング中に前穂高で滑落し、亡くなりました。
この曲を聴くたびに、最後の登山に出かける直前の叔父と、ある約束をしたことを
思い出します。「今度、本を買ってやるからな」。あれから50年。幽霊でもいいから、
もういちど叔父に会いたいという願いは、いまだに叶っていません。

④そんな人ちがい(詞/伊勢正三、曲/南こうせつ

詞も曲も可愛くて切なくて大好きなのですが、録音時のこうせつはノドの調子が
悪かったのか、声がイマイチなのが残念です。

カラオケでこの曲を歌ったら、前の職場の同僚から「3拍子なんて、
さすがは昔の曲」と言われました。確かにいま30代ぐらいまでの人たちは、
3拍子の曲には馴染みがないのかもしれません。でも、かぐや姫には他に
《遠い街》や《おまえのサンダル》もあるし、吉田拓郎の《シンシア》や
中島みゆきの《勝手にしやがれ》《時は流れて》も3拍子なのですが。

⑤好きだった人(詞/伊勢正三、曲/南こうせつ

詞の内容はコミックソング的な要素さえ感じますが、彼の外見の話から、
だんだん内面へ移っていくという、正ヤンの緻密な計算が効いています。
1番は彼の服装について、2番は一緒に出かけたときの彼の様子について、
3番は自分にだけ見せてくれた(であろう)彼の内面をあらわす言動について、
それぞれ書かれています。

全部で3つのバージョンがありますが、私はアルバム『かぐや姫フォーエバー』に
収録された、メルヘンチックなバージョンが好きです。

⑥そんなとき(詞/山田つぐと、曲/南こうせつ

大学時代、最初に住んだアパートは戦後すぐに建てられた、築40年の木造でした。
玄関でクツを脱いで下駄箱に入れる、いわゆる下宿屋タイプ。もちろん風呂なし、
トイレも共同です。まさに、この曲を地で行くようなレトロ空間でした。

ありそうで意外とない、どこかへ転がっていくようなリズムが爽快です。
ライブアルバム『かぐや姫おんすてーじ』のみの収録で埋もれてしまったのか、
この曲がちまたでほとんど紹介されないのは残念でなりません。

⑦眼をとじて(詞・曲/山田つぐと)

東京ではありきたりですが、この曲を聴くと明治神宮外苑の絵画館へと続く
銀杏並木や、私が一時住んでいた阿佐ヶ谷の中杉通り(こちらはケヤキ)などが
思い浮かんできます。

山田パンダが詞と曲を書いた作品のなかでは、《僕の胸でおやすみ》と並ぶ
名曲だと思います。ライブアルバム『かぐや姫LIVE』の収録だけでは満足できず、
わざわざ録り直して『かぐや姫フォーエバー』に収録した気持ちも分かります。

なごり雪(詞・曲/伊勢正三

1975年の「拓郎・かぐや姫 つま恋オールナイトコンサート」で、正ヤンが
ギターをかなぐり捨て、マイクを握って身体を震わせながら歌ったシーンが
印象的です。DVDで観ただけですが。

⑨雨に消えたほほえみ(詞/喜多條忠、曲/南こうせつ

喜多條忠がポピーの花に思い入れがあることは明らかです。この曲にも出てくるし、
本ブログの「いま聴きたい拓郎の曲」で紹介した《春になれば》にも出てきます。
30年以上前に富良野で見たポピー畑とラベンダー畑の、赤と薄紫のコントラストは
圧巻でした。

⑩きらいなはずだった冬に(詞・曲/伊勢正三

かぐや姫の楽曲のなかに、伊勢正三大久保一久のデュオ「風」の楽曲が
紛れ込んだかのようです。ここ数年は私がカラオケで最初に歌う曲として、
選ぶことが多くなりました。