解✦談

解りやすく、解きほぐします。

リベンジ馬券

先輩の直観に乗り切れなかった後悔

 

競馬はしょせん、ギャンブルのひとつにすぎませんが、
それなりに長くやっていると、自分だけのドラマというか、
思い出のようなものも生まれてきます。

たとえば私には、「リベンジ馬券」の記憶が2つあります。

ひとつは、かなり古い話です。

1987年9月20日(日)。

この日は夕方6時頃から、大学時代に所属していたサークルの飲み会が
予定されていました(ちなみに私は、この年の3月いっぱいで大学を
除籍になっていました)。

昼の2時頃だったでしょうか。

サークルのOBで、すでに社会人3年目の先輩と一緒に、西武新宿線
沼袋にある喫茶店で遅めのブランチを食べていました。

6時までには時間があるし、競馬でもやるかと、サンケイスポーツ
見ていた先輩が、「ホンマに来るんかな」と言って紙面を見せてくれました。

そこにはメインレースのGⅢ「オールカマー」の馬柱が載っていて、
佐藤洋一郎という穴予想専門の競馬記者が2枠②番のガルダンという馬に、
ポツンと◎を打っています。

オールカマー」は中山競馬場の芝2200mで、地方競馬所属の馬でも
出走できるという、当時のJRAとしては珍しいレースのひとつでした。

いまでこそ中央競馬JRA)と地方競馬の交流は普通ですが、
当時はそうした慣例がなく、地方競馬所属の馬は基本的にダート(砂)の
レースしか経験がなかったため、芝のレースでは不利になります。

つまり、地方競馬所属の馬が「オールカマー」に出てきても
人気になりにくいわけです。

ガルダンは大井競馬所属の地方馬だったため、その日は14頭立ての10番人気でした。

先輩は「う~ん」と唸ってから、「リャン・ウー・パーの筋でいくか」と言いました。

これは麻雀用語で、「1・4・7」「2・5・8」「3・6・9」という
3つのラインのうち、「2・5・8」を指すものです。

競馬にこの用語をあてはめるときは通常、「2・5・8」の3角買い、
つまりは「2-5」「2-8」「5-8」の3点を買うことを意味します。

その頃、馬券の種類は「単勝」「複勝」「枠連」の3種類しかなかったので、
枠連の3点買いということです。

私もその先輩の直観に同意し、急いで新宿の場外馬券場に向かいました。

先輩はその通りに3点を1000円ずつ買ったのですが、
私はいざ馬券を買う段階になって、少しだけ迷ってしまいました。

6枠⑨番にフレッシュボイスという、好きな馬がいたのです。

どういうわけか、フレッシュボイスがらみの馬券も買いたくなり、
悩んだ末に私は「2-5」「2-6」「5-6」「5-8」の4点を買いました。

結果は、1着が8枠⑭番のダイナフェアリー(2番人気)、
2着が2枠②番のガルダン(10番人気)で、枠連2-8は47.7倍の払い戻しでした。

私は「熱く」なり、最後で日和った自分が許せなくて、夕方からの飲み会も、
ちっとも楽しくありませんでした。

たった3000円で思いつきのように買った馬券が4万円を超えて、
先輩がウハウハだったことは言うまでもありません。

それから3年後の90年9月16日(日)。

同じ「オールカマー」の5枠⑩番に、ジョージモナークという馬が出走してきました。

この馬もガルダンと同じく大井競馬所属の地方馬で、騎手も同じ的場文男です。

ジョージモナークは17頭立ての8番人気。

私は迷うことなく枠連の「2-5」「2-8」「5-8」を買い、念のため
人気薄が集まった8枠のゾロ目「8-8」も付け足しておきました。

結果は、1着が8枠⑰番のラケットボール(11番人気)、
2着が5枠⑩番のジョージモナーク(8番人気)で、
枠連5-8は61.3倍の払い戻しでした。

4000円が6万円となり、3年前の借りを返すことができたわけですが、
枠連2-8と5-8の違いさえあるものの、両レースとも1着が大外枠の馬で、
2着に同じ的場が乗った地方馬が入るというのは、因縁というか、
でき過ぎたドラマのように思えました。

 

自分が心酔した予想法で借りを返す

 

それから少し歳月が流れた、2001年12月23日(日)。

年末の中山GⅠ「有馬記念」は、
1着が4枠④番のマンハッタンカフェ(3番人気)、
2着が1枠①番のアメリカンボス(13番人気)で、
馬連①-④は
486.5倍の大万馬券でした。

実はこの馬連①-④という組み合わせは、競馬ファンなら誰でも
「とりあえず買っておこうかな」と考える馬券だったのです。

有馬記念」は以前から「世相を反映するレース」などといわれ、その年に起きた
事件などに関連した名前の馬が、けっこう好走することで有名です。

2001年は、いわゆる「米国9.11テロ事件」が起きたため、米国に関連する
名前の馬には要注目といわれていました。

マンハッタンカフェアメリカンボスは当然として、当日の「有馬記念」には
5枠⑥番のダイワテキサスという馬も出走しており、これら3頭をからめた
馬券を買うべき、ということになります。

しかし、13頭立てでダイワテキサスは12番人気、アメリカンボスにいたっては
どん尻の13番人気であり、なんぼなんでも、こんな「ベタ」な馬券は
来ないだろうというのが私の結論でした。

結局、その日の私は馬券を買いに行きながらも「有馬記念」は買わず、
他のレースの馬券をたくさん買ったのですが、それにはもうひとつ、
大きな理由がありました。

当時の私は、北野義則という放送作家が書いた『馬券練習帳』という
シリーズの本に凝っていました。

そこに書いてあったのは、こんな内容です。

●レース中に馬が2コーナー、3コーナー、4コーナーでどのような
  通過順位にいたかに注目せよ。

●たとえば16頭立てのレースで、2コーナーが「14番手」、3コーナーが「3番手」、
  4コーナーが「2番手」で、最終的に1着から0.4秒差の7着だったような場合、
  その馬は2コーナーから3コーナーの間で相当な無理をして順位を上げ、
  にもかかわらず最終的に0.4秒差に健闘したことになる。

●その馬はかなりの地力があると考えられるため、次回以降のレースでスムーズな
  レース運びをした場合、好走する可能性が高い。

この予想法に心酔してしまった私は、過去にスムーズではないレース運びをして、
なおかつ健闘した馬を必死で探しました。

有馬記念」の当日、阪神の10レースにハートランドヒリュという馬が出走していて、
この馬が5走前に無茶なレース運びで1秒差の7着となっていました。

「これだ!」とひらめいた私は、ハートランドヒリュに思い切り突っ込んで、
あえなく散ったのでした。

そんなわけで、自分が「有馬記念」を買わなかったことを悔やむと同時に、
知人とその友人たちが何人も、その「有馬記念」の大万馬券(1000円が48万円)を
普通に獲っていたと聞いて、余計にハラワタが煮えくり返りました。

この借りは、自分が心酔した予想法で取り返すしかない。

そう思っていた矢先の、2002年5月19日(日)。

東京GⅠ「オークス」で、私は5枠⑩番のスマイルトゥモローから
単勝枠連馬連を買いました。

スマイルトゥモローは前々走を無茶なレース運びで勝っていたため、
相当に地力が高いのだと思い、前走の「桜花賞」でも私はこの馬からけっこう
馬券を買っていました。

桜花賞」は6着に終わりましたが、最後の直線で追い込んできたとき、
明らかに「脚を余した」、つまりは仕掛けが遅すぎて負けた感じでした。

それを見た時点で、次の「オークス」もこの馬から買うと決めていました。

オークス」は、1着が5枠⑩番のスマイルトゥモロー(4番人気)、
2着が2枠③番のチャペルコンサート(12番人気)で、
馬連③-⑩は135.9倍の万馬券となり、それを含めてゴチャゴチャと
2万5000円ほど買っていた馬券は、80万円超えの払い戻しとなりました。

以上の2例は、とりあえず借りを返したことにはなるのでしょうが、
もともとは単純な気の迷いや勝手なこだわりなどにより、馬券の買い方を
ミスッたことに端を発しているわけです。

過去にそうしたミスはあまりに多いため、一つひとつの借りを返そうにも
覚えていられないというのが、私の競馬人生の現実なのかもしれません。