債券について理解する
リスクはケース別に考える
いま投資に興味をもっている人のうち、債券という金融商品について、
それなりに理解している人はどれぐらいいるのでしょうか。
投資によって資産を増やしたいのはやまやまだけれど、一方で
元本割れはできるだけ避けたいと願う人は多いはずです。
そんな人にとって本来、債券はうってつけの投資対象といえます。
債券の特長は、保有する期間に応じて一定の利息が受け取れるうえに、
満期まで持ち切ると投資元本も戻ってくるという点です。
たとえば私たちが「満期3年・年金利1.5%」の債券Aを、
新規発行時に10万円で買った場合を考えてみます。
満期までの3年間ずっと持ち続けると、毎年1.5%の金利が付くので、
「10万円×0.015×3年間=4500円」の利息が受け取れます。
さらに投資元本である10万円も、そのまま戻ってきます。
債券は一部の種類を除いて、株式と同じように、いちど買ったものを
市場で売ったり、すでに市場で流通しているものを買うことも可能です。
上記の債券Aを、たとえば購入から1年後に売ったとしましょう。
まず1年間の金利1.5%分にあたる「10万円×0.015=1500円」の
利息が受け取れます。
ただし、売ったときの債券価格が購入時よりも下がっていたら、
その分だけリターンは削られることになります。
仮に売却時の債券価格が9万8000円だったとすると、売買によって
2%のマイナスが生じることになるため、利息と合わせたトータルの
リターンは0.5%のマイナスとなります。
反対に、売ったときの債券価格が購入時よりも上がっていたら、
その分だけリターンは上乗せされることになります。
これが債券投資の基本的な考え方です。
債券投資のリスクについては、2つのケースに分けて考える必要があります。
まず、購入した債券を満期まで持ち切るケース。
この場合は、債券の発行体(国債を発行する国や、社債を発行する企業)が、
当初の約束どおりに金利の支払いや元本の返還に応じなくなる可能性があり、
極論すれば、それが唯一のリスクとなります。
債券の発行体が当初の約束を守れなくなる状態を、
デフォルト(債務不履行)といいます。
最近では、中国の大手不動産会社が社債のデフォルトに陥るリスクが高まって、
その影響から世界的に株価が下がるといった騒ぎも起きています。
ただし、債券の発行体が世界的に信用されている国や企業ならば、
それほどデフォルトを心配する必要はありません。
たとえば国家としてのデフォルトが考えにくい日本や米国など先進国の国債は、
満期まで持ち切るかぎり、事実上の元本保証商品であるといえます。
もうひとつが、購入した債券を満期以前に売却するケース。
この場合は前述したデフォルトのリスクに加えて、債券価格の下落リスクもあります。
債券価格がなぜ上下するかについては、金利がからんでくるため、
かなり話がややこしくなります。
また、債券の価値を表す用語がいろいろあって紛らわしいため、
それを整理しておく必要もあります。
まずは債券用語について簡単にまとめておきます。債券の価値を表す用語として、
「表面利率」「債券価格」「債券利回り」などがあります。
「表面利率」とは、債券の発行体が投資家に支払うことを約束した年間の
利子率のことで、債券の金利にあたるものです。
債券は固定金利型が一般的なので、満期まで持ち切る場合でも、満期以前に
市場で売却する場合でも、発行時に決められた表面利率はいっさい変わりません。
(債券のなかには一部、変動金利型のものもあります)
「債券価格」とは、債券が市場で取り引きされる際の価値を表すもので、
株式の株価や、投資信託の基準価額のような感覚でとらえていいでしょう。
「債券利回り」とは、表面利率による金利収入に、市場での取引による
売買損益も加えて計算した年間収益率を表します。
これは上記の債券Aでいうならば、購入から1年後に売った場合の
トータルリターンにあたるものです。
債券価格の動きに影響を与える要因としては、中央銀行の金融政策や、
国内における資金需要の変動などが代表的です。
日本銀行が金融引き締め策として利上げをおこなったり、日本国内の企業や個人の
資金需要が増加すると、それらに応じて日本の市中金利も上昇します。
市中金利というのは金融市場で決まる標準的な金利のことで、債券金利や
ローン金利など、世の中のあらゆる金利の基準になるものです。
ここでは便宜上、市中金利を「世の中の金利」と呼ぶことにしましょう。
価格が下がると利回りが上がる仕組み
債券価格が上下する仕組みについて、日本国債を例に取って考えてみます。
世の中の金利が上昇するなかで、満期2年の国債Bが10月に、
同じく満期2年の国債Cが11月に発行されたと仮定します。
新規に発行される国債の表面利率は、世の中の金利の動向などに
照らし合わせて決められるため、たとえ満期までの期間が同じ国債でも、
その発行時期によって表面利率は変わることがあります。
極端なたとえですが、10月に発行された国債Bの表面利率は0.5%で、
そこから世の中の金利が上がったため、それに照らし合わせて、
11月に発行された国債Cの表面利率は1.0%になったとします。
国債Cが発行された時点で、投資家の立場から2つを比べると、
新たに発行された国債Cの方が金利面で有利なため、市場では
相対的に魅力が低い国債Bの購入が減って、国債Bの価格は下落します。
国債は新規に発行されるものを購入しても、すでに市場で流通しているものを
購入しても、満期時に戻ってくる元本相当分の金額(額面金額)は変わりません。
そのため、国債Bを「価格が下落した後に買った人」は、満期まで持ち切ると、
売買による収益(売買差益)が発生します。
つまり、同じ国債Bを「新規発行時に額面金額で購入した人」よりも、
債券利回りが上昇することになるのです。
ここまでの話をまとめると、以下のようになります。
●世の中の金利がこれまでよりも上昇する
↓
●新規に発行される国債の表面利率がこれまでよりも上昇する
↓
●すでに発行されて市場で流通している国債の価格が下落する
↓
●すでに発行されて市場で流通している国債の利回りが上昇する
反対に世の中の金利が低下する過程では、これとはまったく逆のことが起こります。
なお、上記の例で国債Bの「利回りが上昇する」というのは、あくまでも
価格の下落を受けて、これから国債Bを購入する人にとっての話です。
新規発行時などに購入して、もともと国債Bを保有していた人にとっては、
世の中の金利が上昇したことで、価格下落のリスクにさらされたことになります。
ところで、日本では現在、満期10年の国債でも利回りが0.05%程度という有様です。
元本割れを避けたい気持ちは強くても、これだけリターンが低くなると、
人びとの興味はなかなか債券には向かないでしょう。
いわゆる外債投信(外国の債券に投資する投資信託)は、いまでも一定の人気が
あるようですが、かつてのような好リターンは期待できないのが実情です。
外債投信がひと頃、好リターンを上げていたのは、先進国で世の中の金利が
ほぼ一貫して低下し続けていた時期にあたります。
実はこのように金利が世界的に低下するプロセスでは、外債投信はある程度、
リターンを上げやすいのです。
世の中の金利が低下するなかで、外債投信が保有している債券を中途売却する
ケースを考えてみます。
すでに保有している債券は相対的に金利が高いときに購入しているため、
かなりの量の金利収入が積み上がっています。
しかも、世の中の金利が低下するのを受けて、保有債券の価格は
値上がりしているため、中途売却によって売買差益も得られます。
このように金利収入と売買差益の両面でリターンが得られるため、
世の中の金利が低下するプロセスが長く続くほど、外債投信は高い
リターンを上げやすくなるわけです。
米国で今年中にも金融緩和の縮小が、来年には利上げがそれぞれ
見込まれているように、今後はどちらかといえば、いずれの先進国でも
金利は上昇に向かいやすくなると思われます。
つまり、一部のハイリスクな債券に投資する場合や、為替がこれから
大きく円安に振れる場合を除いて、私たちが外債投信に期待できるリターンが
以前のような高水準に戻ることは、しばらくはないと考えられるわけです。
ただ、それでも債券についてある程度、理解しておくことは重要です。
たとえば満期10年の国債の利回りは、別名を「長期金利」といって、
さまざまな金融商品の利回りや収益率が妥当かどうかを考えるうえで、
基準あるいは参考になるものです。
いま、日本では満期10年の国債でも利回りが0.05%程度なのだから、
それをはるかに上回るような利回りを保証する金融商品があった場合、
「何かおかしいぞ」と疑いながら冷静に対処することが可能になります。
日本ではかつて、長期金利が8%台の時代(1990年)がありました。
それから大きく下がりましたが、それでも95年は4%台、96年でも3%台でした。
そんな時代と比べれば、いま私たちが株式や投資信託などに過大なリターンを
期待することにはいささか無理がある、と考えるのも妥当なのかもしれません。