解✦談

解りやすく、解きほぐします。

フォースプレイをめぐる混乱

フォースアウトの判定がなかった

 

9月13日(月)の中日vsヤクルト18回戦(バンテリンドームナゴヤ)において、
かなり珍しい事件が起きました。

得点「1対0」の中日リードで迎えた9回表、ヤクルトの攻撃。

「1アウト1、2塁」で代打・川端が、セカンドゴロを打ちました。

中日のセカンド・堂上が捕球して、まず1塁から走ってきた走者・西浦に
タッチを試みます。

しかし、タッチができなかったため、打者走者である川端をアウトにしようと、
すぐに1塁へ送球しましたが、川端は1塁でセーフになります。

このとき、もともと1塁走者だった西浦は2塁に向けて走っていたため、
中日のファースト・福田は、2塁ベースに入ったショートの京田に送球しました。

走者の西浦は1・2塁間で立ち止まり、いわゆる「はさまれた状態」になります。

2塁ベースの手前で送球を受けたショート・京田は、少しの間、走者・西浦を
追いかけた後にファーストの福田へ送球。

福田は再び京田へ送球し、このときに京田は2塁ベースを踏みました。

しかし、2塁審判が何のジャッジも下さなかったため、再び走者・西浦をはさんで、
京田は1塁ベース前にいたセカンドの堂上に送球します。

堂上はしばらく西浦を追いかけますが、その間に、3塁まで進んでいた
走者・古賀(もともとは2塁走者)が本塁への突入を試みました。

それを見た堂上は、すかさずキャッチャー・木下拓に送球し、
走者・古賀は本塁ベース前でタッチアウトとなりました。

その後、いったんは「2アウト1、2塁」で試合が再開されそうになりましたが、
ここで中日の与田監督が「リクエスト」(リプレー検証)を要求します。

京田がボールを持った状態で2塁ベースを踏んだとき、1・2塁間にはさまれていた
走者・西浦は「フォースアウト」になるのだから、すでに3アウトだという主張です。

結局、この主張が認められ、3アウトで試合終了となったのですが、
ヤクルトの高津監督は納得できず、審判団に猛抗議します。

走者・西浦が2塁でフォースアウトという判定があれば、3塁まで進んでいた
走者・古賀が本塁へ突入することはなかった。

2塁塁審がフォースアウトの判定を下さなかったのは、明らかなミスだと
いうような抗議内容です。

なぜ判定があれば、走者・古賀の本塁突入はなかったのかという詳しい説明は
ありませんが、恐らく

・2アウトなら、3塁走者はもっと慎重になるから
・その時点で「走者がはさまれた状態」は解消され、中日の守備陣の注意は
 3塁走者に向くから

などの理由ではないかと思われます。


翌14日(火)になってヤクルト側に、審判部とセ・リーグから事情説明と
謝罪がありました。

2塁でフォースアウトの判定を下さなかったのは、2塁塁審が
「打者走者が1塁でセーフになったのを見逃していた」ことが
原因とのことでした。

 

笑ってしまったダブルプレー

 

この問題については、数年前から指摘されていたプロ野球・審判団の
能力低下に関する疑念はもちろん、そもそも「判定が下されなかった
プレーに対してリクエストが可能なのか」といった疑問の声もあがるなど、
今後も何かと波紋を呼びそうな気がします。

ただ、野球のルールを再確認するうえでは、良い教材となりました。

家にあった『わかりやすい野球のルール』(成美堂出版)という本を参考に、
今回の事件に関係のあるルールをまとめると、以下のようになります。

●打者が打った後に走者となることで、もともと塁上にいた走者が
  押し出される状態を「フォースの状態」という。

●たとえばランナー1、3塁で打者が内野ゴロを打ったとき、1塁走者は
 「打者走者によって1塁から押し出される」ため、フォースの状態となるが、
  3塁走者は誰にも押し出されないので、フォースの状態ではない。

フォースの状態にある走者をアウトにするためには、その走者が
  進もうとする塁に、守備側がボールを持った状態で触れればよい。
  これをフォースプレイといい、塁に触れるのは身体のどの部分でも構わない。

フォースの状態にない走者をアウトにするためには、走者が塁を離れたときに、
  守備側がボールを走者の身体に触れさせるか、ボールを握っているグラブを
  走者の身体に触れさせる必要がある。これをタッグプレイという。

●走者がいったんフォースの状態になっても、自分より後位の走者(※)が先に
  アウトになれば、押し出されて進塁する義務がなくなるため、フォースの状態
  解除される。

※自分より後位の走者:「ランナー1塁」の場合は打者走者をさす。「ランナー1、2塁」の場合、
 2塁走者にとっては打者走者と1塁走者が、
1塁走者にとっては打者走者がこれに該当する。


「ランナー1、2塁」から打者が内野ゴロを打ち、打者走者が1塁で
アウトになった場合には、1塁走者はフォースの状態ではなくなるので、
守備側が2塁ベースにボールを持って触れるだけではアウトになりません。

1塁走者をアウトにするためには、走者が塁から離れている状態で、
走者の身体にボールを触れさせる必要があります。

今回の事件では、たまたま打者走者が1塁でセーフになったため、
1塁走者はフォースの状態となり、「守備側がボールを持って2塁ベースを
踏んだ時点でアウトになる」というのが正解だったわけです。

ちなみに、フォースの状態が解除された走者は、もともといた塁に
戻ることもできます。

たとえば「ランナー1塁」で、打者がファーストゴロを打ち、捕球した
ファーストがすぐに1塁ベースを踏んで打者走者を先にアウトにした場合。

1塁走者はフォースの状態が解除されるため、押し出されて2塁に進塁する
義務がなくなります。

つまり、2塁に進塁してもいいし、1塁に戻ってもいいわけです。

もちろん、いずれも塁に到達するまでの間、守備側のタッグプレイで
アウトにならないことが条件ですが。

思い出すのは、小学5年生のとき。

地域の少年野球チームで練習試合(紅白戦)をやっていて、私は1塁ランナーでした。

上記の例と同じように、バッターがファーストゴロを打ち、ファーストが
1塁ベースを踏んで打者走者をアウトにした後で、2塁に送球してきました。

ファーストが思いのほか、速くて正確な送球をしたので焦りましたが、
ショートが2塁ベースを踏んだだけで、まったくタッチに来なかったので、
私は悠々と2塁にすべり込みました。

すると、相手チームのセンターを守っていた6年生の先輩が、
「いまのはアウト」で「ダブルプレー成立」だと言うのです。

「ノータッチ、ノータッチ」と私がいくら言っても、相手チームはおろか、
味方チームの連中まで「アウトやで」と言い出す始末でした。

「ああ、ルールも知らんのか…。このチーム、弱いはずや」と内心で嘆き、
笑ってしまったのを覚えています。