解✦談

解りやすく、解きほぐします。

分散投資の意味

値動きの性質が異なるものの組み合わせ

 

分散投資は「何を分散するか」によって、おおむね2つの種類に分かれます。

①銘柄分散:日本株なら日本株という同じ金融資産のくくりのなかで、
 複数の銘柄に投資すること
②資産分散:「日本株+日本債券」「日本株+外国株+外国REIT不動産投資信託)」
  「外国株+金(ゴールド)」という具合に、複数の金融資産に投資すること

いずれも投資対象を分散するわけですが、そこでは「値動きの性質が異なるものを
組み合わせること」が大前提になります。

そう言われてもピンとこないかもしれないので、『投資のリスクとリターン』で
お話ししたのと同様に、今回も投資を野菜の収穫にたとえてみます。


ある農家がいま、「きゅうり」を生産しているとします。
1品目だけでは生産が安定しないので、さらに他の野菜も取り扱おうと考えました。

そのとき、「なす」や「ピーマン」を選ぶと、これらはきゅうりと同じく
夏野菜なので、いわば同類を加えることになります。

春の種まきから夏場の収穫期に向けて、生育環境に問題がなければ、
すべてが豊作という年もあるでしょう。

しかし、3品目はいずれも乾燥に弱い野菜なので、空梅雨の年などは
ちょっと困ったことになります。

あくまでも年間の収穫量が安定するという観点でみた場合、同じ夏野菜でも
乾燥に強い「スイカ」や「ゴーヤ」を加えたり、収穫時期の異なる冬野菜として
「ダイコン」や「ほうれんそう」を加えた方が、きゅうりとの組み合わせとしては
ベターだと考えられるわけです。


「野菜の収穫量=投資のリターン」だとすると、それに影響を与えるものとして
「野菜の生育上の特徴」にあたるものが、「投資対象の値動きの性質」だと
いえるでしょう。


たとえば2つの投資対象があるとして、それらの値動きの性質が異なるという場合、
いちばん望ましいのは2つが正反対の値動きをすることです。

もちろん、「投資対象A」が10%値上がりしたときに、「投資対象B」が必ず
10%値下がりしたら、いつまでたっても利益が得られないことになりますが、
2つの投資対象がそのように完全な正反対の値動きを示すことはあり得ません。

イメージとしては、Aが10%値上がりしたときに、Bが5%値下がりする。
逆に、Aが5%値下がりしたときには、Bが10%値上がりする。

そんな風に2つの値動きが部分的に打ち消し合うことで、どんなときでも
常に安定して5%の利益が得られるような状況をつくり出すことが、
分散投資の目的であり、理想なのです。

いま理想という言葉を使ったのは、たとえば以下のようなケースもあるからです。

Aが10%値下がりしたときに、Bが5%値上がりする。
Aが5%値上がりしたときに、Bが10%値下がりする。

これだと、安定して5%の損失が出ることになってしまいますが、消極的な
考え方ではあるものの、それでもやはり分散投資の意義は見出すことができます。

私たちがAかBのどちらかに単独で投資していた場合、10%値下がりしたときには、
そのまま10%の損失となりますが、同時にAとBの2つに投資することによって、
損失が5%に抑えられるからです。

このケースでは、AともBとも値動きの性質が異なるCやDといった投資対象を
加えることで、リターンの向上を図ればいいわけです。

 

資産分散の王道といわれる「国際分散投資


たとえば、冒頭にあげた①の銘柄分散について考えてみます。

自分がいま自動車メーカーの株式に投資しているとして、そこにまた他の
自動車メーカーの株式を組み合わせてしまうと、同類を増やすことになるので、
単純に考えて分散投資の効果はそれほど期待できません。

それよりは、コンビニなどの小売業や、食品メーカーなどを組み合わせた方が
ベターだと思われます。

日本株のなかで自動車メーカーなどは、株価が世界的な景気の良し悪しに
左右されやすい「景気敏感株」として知られています。

一方で小売業や食品メーカーなどは、株価が景気の影響を比較的に受けにくい
「ディフェンシブ株」として知られています。

景気というのは株価に影響を与える数多くの要因のひとつにすぎませんが、
そこそこ大きな要因であることは確かです。

景気に対する反応が異なる銘柄どうしを組み合わせることで、値動きの部分的な
打ち消し合い、つまりは値動きの安定化が期待できるというわけです。

②の資産分散で着目するポイントは、「相関係数」という指標です。

これは2つの金融資産の値動きに、どの程度の連動性があるかを示すもので、
係数はプラス1~マイナス1の範囲で表されます。

相関係数がプラスの場合、プラス1に近いほど連動性が強くなる、
つまりは2つの金融資産の値動きが似てくることを意味します。

相関関係がマイナスの場合、マイナス1に近いほど連動性が弱くなる、
つまりは2つの金融資産の値動きが逆向きになることを意味します。

日本株、日本債券、外国株、外国債券という代表的な4つの金融資産の
相関係数は、以下のとおりです。

日本株:日本債券  -0.158
日本株:外国株   +0.643
日本株:外国債券  +0.060
●日本債券:外国株  +0.105
●日本債券:外国債券 +0.290
●外国株:外国債券  +0.585

これは日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、
2020年4月1日から新たに採用したポートフォリオ(資産配分比率)の策定に
あたって活用したデータです。

一見して気づくのは、日本株と外国株および、外国株と外国債券の連動性が
高いことです。

代表的な4つの金融資産から2つだけを選んで分散投資する場合、
日本株+外国株」と「外国株+外国債券」の組み合わせは、他の組み合わせに
比べると、値動きを安定させる効果(リスク低減効果)が薄いと考えられます。


資産分散の王道といわれるのが、「国際分散投資という考え方です。

これは代表的な4つの金融資産に、それぞれ投資資金を25%ずつ、
均等に配分するという方法。

あるデータによると、4つの金融資産へ均等に分散投資をおこなったとして、
1970年から2020年までの「1年ごと(年初~年末)の投資成績」を調べてみると、
51年間のうち15年間はマイナスになっていました。

しかし投資期間を10年間でみると、「1970年(1月)~79年(12月末)」の
10年間に始まって、「2011年(1月)~20年(12月末)」の10年間まで、
全部で42回あったどの10年間をとっても、「10年間の投資成績」はすべて
プラスになっています。

これがいわゆる、長期投資に分散投資が加わった際のリスク低減効果です。


ちなみに前述したGPIFでは、たとえば2014年10月から20年3月までは
日本株25%、日本債券35%、外国株25%、外国債券15%」という
資産配分を採用していましたが、20年4月1日からは「4つの金融資産
それぞれに25%ずつ」という資産配分に変えています。

最近では外国株を「先進国株」と「新興国株」に、外国債券を「先進国債券」と
新興国債券」に分類して、全部で6つの金融資産に分散するという考え方も
あるようですが、そこまで徹底した資産分散を検討するのはある程度、
投資に慣れ親しんでからでも十分だと思います。

また、REITや金などへの分散は、国際分散投資に加えて、さらに細かく
独自の資産分散をおこないたい人向けのものと考えていいでしょう。