解✦談

解りやすく、解きほぐします。

ウルトラシリーズが示した不条理

開発競争のスパイラル

先日、某新聞が「核実験」について詳細に報じていました。

それによると、地球上で過去におこなわれた核実験は合計2000回を
超えるそうです。

核兵器については軍事機密の扱いとなるため、核実験の実施国は、
いずれも情報の開示には消極的です。

そのため、核実験によって被爆した人びとへの補償や、汚染された
地域の環境修復は、なかなか進まないのが実情のようです。

私はこの記事を読んで、円谷プロが制作した特撮テレビ番組
ウルトラシリーズ」の作品をいくつか思い出しました。

ちなみにウルトラQウルトラマン(初代)、ウルトラセブン
初期シリーズ3部作が放映された時期は、1966年~68年です。

 

ウルトラセブン/第26話 『超兵器R1号』

新型水爆8000個分の爆発力をもつという惑星攻撃用兵器R1号が、
実験としてギエロン星に打ち込まれました。

R1号を開発した科学者のひとりは、こう言います。

「我われが超兵器を持ったということを、宇宙の侵略者たちに知らせることも、
この実験のひとつの目的だ」

科学者の調査によると、ギエロン星は「摂氏270度、酸素濃度0.6%」で、
絶対に生物が棲息できない環境のはずでした。

しかし、そこには生物が存在し、自分の星を消滅させた地球人に対して、
復讐にやってきます。


このストーリーが、核実験を繰り返しながら「より強力な兵器開発競争」という
負のスパイラルに陥っている大国たち、とくに米国とソ連(現ロシア)を
意識していたことは確かでしょう。

前述の新聞記事によると、米国が過去に合計44回の核実験をおこなった、
太平洋のマーシャル諸島にあるエニウェトク環礁では、環礁を構成する
40島のうち4島が消滅したそうです。


ウルトラマン(初代)/第2話 『侵略者を撃て』

かの有名なバルタン星人が初めて登場した回です。

途中でナレーションが入り、次のような説明をします。

「発狂した科学者の核実験がもとで、バルタン星は爆発した。
たまたま宇宙旅行中で助かった20億以上のバルタン星人は、
棲めそうな星を探しまわった末に、地球へたどり着いた」


見逃されがちな部分かもしれませんが、第2話にしてこんなストーリー設定が
なされていたとは驚きです。

核戦争の寸前まで行ったとされる1962年のキューバ危機や、いわゆる
「核のボタン」を意識したものと思われます。

 

身勝手さと隠蔽体質


ウルトラセブン/第16話 『闇に光る目』

アンノン星を調査するために打ち上げられて、行方不明となっていた無人宇宙船が、
ある日、自力で地球へ戻ってきます。

地球からの侵略と勘違いして怒ったアンノン星人が、無人宇宙船に乗り込んで
報復にやってきたのです。

「平和利用のためだった」と釈明するウルトラ警備隊のキリヤマ隊長に対して、
アンノン星人は「地球人の言うことは信用できない」と返答します。


ウルトラQ/第3話 『宇宙からの贈りもの』

火星の表面撮影を目的に、ロケットが打ち上げられますが、失敗に終わりました。

ところがある日、カプセルだけが勝手に地球へ戻ってきます。

そこには小さな2つの金色の卵が入っていて、熱すると巨大化して
ナメゴン(ナメクジのような怪獣)が出てくる仕掛けになっていました。

これについて、一の谷博士は次のような仮説を立てます。

「宇宙開発のために我われ人類が打ち上げる人工衛星やロケットを、宇宙の側では
迷惑がっていて、地球への威嚇として卵を送りつけてきたのではないか」

③と④の話は、当時の米ソによる軍事利用を視野に入れた宇宙開発競争はもちろん、
他国への軍事介入や内政干渉を繰り返す身勝手な振る舞いも、皮肉るような内容です。

 

ウルトラマン(初代)/第23話 『故郷は地球』

ジャミラという宇宙飛行士が乗った有人衛星ロケットが、地球へ帰還しないという
事故が起きました。

宇宙開発に支障が生じることを恐れて、世界はその事実をひた隠しにします。

やがて、どこかの星にたどりついたジャミラが過酷な環境下で怪獣に姿を変え、
復讐のために地球へ帰ってくるという話です。


国家(お上)の隠蔽体質については、改めて指摘する必要もないでしょう。
過去も現在も、そして将来も、隠蔽は繰り返されていくはずです。

 

ウルトラシリーズ」が所どころで示唆した不条理は、恐らく今後も
改善されることなく、続いていくのだと思います。

その意味では、人びとは世の中の大きな流れに対して、まったくもって
無力なのかもしれません。

ただ、いまから50年以上前の時点で、子ども向けの特撮テレビ番組に
こうした要素が盛り込まれていたことは、その不条理を世に知らしめる点では
意義があったのではないでしょうか。

私は子ども時代にウルトラシリーズの再放送を何度も観ながら、
正確にではないにしても、「何かおかしいな」という印象を
抱いていたような気がします。


さらに、私の世代が親しんだマンガの世界は、もっと過激で身も蓋もない
不条理を教えてくれました。

テレビアニメ『タイガーマスク』(69年~71年放映)の最終回が発した
メッセージは、次のようなことだと思います。

悪を滅ぼすためには、その悪を上回る悪を使うしかない。

つまりは「毒をもって毒を制す」ということです。

しかし厳密にいえば、悪とか正義とかの線引きも、立場や関係性によって
変わってくるものです。

それを端的に示したのが、72年から73年にかけて週刊誌に連載された、
漫画版『デビルマン』の結末でした。

かくして私は、いまだに禅問答の波に、もまれ続けているわけです。